実は今、飲食業界は深刻な人手不足により、かつてないほどの「売り手市場」となっています。
これは、求職者が企業を選べる立場にあることを意味します。
特に「高卒」という若さは、この業界において極めて大きな強みになり得ます。
大卒者が社会に出るまでの4年間で現場経験を積み、20代前半で店長やエリアマネージャーといった管理職に就くことも十分に可能なのです。
本記事では、人事労務管理の実務的な観点と、公的な統計データに基づいた「給与のリアル」と、法律知識を武器にブラック企業を回避し、着実にキャリアアップするための戦略を解説します。
- 厚生労働省のデータが示す、高卒飲食正社員の意外な「初任給」と生涯年収の仕組み
- 「3年以内離職率65%」という数字の裏側と、それを逆手に取ったキャリア生存戦略
- ブラック企業を回避するための「求人票」の法的なチェックポイントと具体的なキャリアパス
1.高卒で飲食店正社員は「稼げる」のか?【厚生労働省データ検証】
「飲食は給料が安い」というイメージが定着していますが、実際のデータはどうなっているのでしょうか。
厚生労働省の統計を紐解くと、意外な事実が見えてきます。
データが示す「初任給」の真実
まず、高校卒業後の初任給について、全産業の平均と飲食サービス業のデータを比較してみましょう。
| データ項目 | 金額(月額) |
|---|---|
| 高卒初任給(全産業平均) | 約19万7,500円 |
| 宿泊業・飲食サービス業 | 約20万3,300円 |
このように、飲食サービス業の初任給は、全産業平均を上回っている傾向があります。

これにはシフト制による夜間勤務手当などが含まれる場合もありますが、社会人としてのスタート時点における収入としては、決して低い水準ではありません。
正社員とフリーターの「生涯年収」の決定的差
「時給が高いバイトで稼ぐのと変わらないのでは?」と考える方もいるかもしれません。
しかし、正社員と非正規雇用(アルバイト・パート)では、「生涯年収」に決定的な差が生まれます。
その最大の要因は「賞与(ボーナス)」と「社会保険」です。
厚生労働省の賃金構造基本統計調査によると、高卒男性の年間賞与平均は約79万円、女性でも約47万円となっています。
さらに、正社員であれば厚生年金や健康保険の会社負担があり、将来受け取る年金額や、病気・ケガの際の保障が手厚くなります。

目先の月収だけでなく、長期的な視点で「守られている」のが正社員という働き方です。
手取り額のシミュレーション
求人票に書かれている「額面(総支給額)」と、実際に振り込まれる「手取り額」には違いがあります。
一般的に、額面の約8割が手取り額の目安となります。
例えば、額面が20万円の場合、税金や社会保険料として約3〜4万円が引かれ、手取りは約16〜17万円となります。
※入社1年目は住民税が控除されないため、手取り額は表記よりやや多くなる傾向があります(2年目以降から控除が始まります)

生活設計を立てる際は、この手取り額を基準に家賃や生活費を計算することが重要です。
2.なぜ「離職率65%」なのか?業界のリアルと生存戦略
辞める理由
希少人材になれる
「求人票」の読み方
飲食業界を語る上で避けて通れないのが「離職率の高さ」です。
厚生労働省のデータによると、宿泊業・飲食サービス業における高卒就職者の3年以内離職率は64.7%に達しています。
この数字をどう読み解くかが、キャリア成功の鍵となります。
参考|厚生労働省:新規学卒就職者の離職状況(令和4年3月卒業者)
3年以内に6割が辞める理由
なぜこれほど多くの人が辞めてしまうのでしょうか。
主な理由は「労働時間の長さ・不規則さ」や「職場の人間関係」です。

土日祝日が休みでなかったり、ランチやディナーのピークタイムに忙殺されたりすることで、理想と現実のギャップに苦しむケースが少なくありません。
「辞めない」だけで希少人材になれる
しかし、この高い離職率は、見方を変えればチャンスでもあります。
ライバルが勝手に辞めていく中で、3年間踏ん張って業務を習得し、店舗運営のノウハウを身につければ、それだけで社内での希少価値(サバイバーズ・ベネフィット)が高まるからです。
実際、飲食業界では20代前半で店長に抜擢されるケースが珍しくありません。
大卒の同級生が新入社員として研修を受けている頃には、すでに一店舗を任されるマネージャーとして活躍しています。

これが、高卒で飲食業界に飛び込む最大のメリットと言えるでしょう。
ブラック企業を回避する「求人票」の読み方
長く働き続けるためには、入社前の企業選びが命綱となります。
法務の視点から、求人票で必ずチェックすべきポイントを2つ挙げます。
「固定残業代(みなし残業)」の有無と時間数
「月給25万円(固定残業代45時間分を含む)」といった記載がある場合、基本給はもっと低く設定されています。
また、45時間という上限に近い設定は、恒常的な長時間労働を示唆している可能性があります。
年間休日数
年間休日が「105日」以上あるかが一つの目安です。
さらに「120日」以上あれば、完全週休2日制に近く、プライベートの時間も確保しやすい「ホワイト企業」である可能性が高いと言えます。
3.高卒からキャリアを駆け上がる「3つのルート」
飲食業界でのキャリアは、皿洗いだけで終わるわけではありません。
明確な目標を持つことで、年収アップや独立を実現する3つのルートがあります。
マネジメントルート:20代で店長・エリアマネージャーへ
大手チェーンなどで最も一般的なルートです。
ホールやキッチンの実務を経て、店長、複数店舗を統括するエリアマネージャー(SV)、そして本部スタッフへと昇進していきます。

大手チェーンの店長クラスでは、年収500万〜600万円以上を目指すことも十分に可能です。
スペシャリストルート:働きながら「調理師免許」を取得
「手に職をつけたい」という方は、調理技術を極めるルートが適しています。
調理師免許は、調理の実務経験が2年以上あれば、学歴に関係なく受験資格が得られます。

働きながら国家資格を取得することで、一生モノのスキルを証明でき、転職や給与アップの強力な武器となります。
独立・起業ルート:自分のお店を持つ
将来的に自分のお店を持ちたいという夢がある場合、若いうちからの修行は大きなアドバンテージになります。
現場で調理と経営の両方を学びながら資金を貯め、日本政策金融公庫などの融資制度を活用して独立を目指します。

学歴が一切関係ない、実力次第でオーナーになれる道です。
4.適性診断:ホールとキッチン、向いているのはどっち?
(Hall Staff)
「司令塔」
(Kitchen Staff)
「職人」
これから応募する際、「ホール」と「キッチン」のどちらを選ぶべきか迷うかもしれません。
それぞれの適性を簡単に整理します。
接客・ホール(Hall Staff):人と話すのが好きな「司令塔」
ホールスタッフは店の顔です。
お客様とのコミュニケーションはもちろん、キッチンへのオーダー通しや店全体の状況把握など、広い視野と臨機応変な対応力が求められます。

人と接することが好きで、チーム全体を動かすことにやりがいを感じる方に向いています。
調理・キッチン(Kitchen Staff):技術を極める「職人」
キッチンは店の心臓部です。
美味しい料理を素早く、正確に作る技術と集中力が求められます。
黙々と作業に没頭するのが好きな方や、自分の作ったもので人を喜ばせたいという探究心のある方に向いています。

未経験からでも、包丁の握り方から丁寧に教えてくれる職場が多くあります。
5.失敗しない就職活動の進め方
法的に確認しよう
vs 個人経営店
福利厚生
独立ノウハウ
最後に、就職活動で失敗しないためのポイントをお伝えします。
「正社員」の定義を法的に確認しよう
求人に応募する際は、雇用形態が法的に「正社員」であるかを必ず確認してください。
法律上の正社員とは、以下の3つの条件を満たす働き方を指します。
正社員の3つの条件
- 期間の定めのない契約(無期雇用):いつまでという期限がないこと
- フルタイム労働:所定労働時間がフルタイムであること
- 直接雇用:派遣会社ではなく、勤務先の企業に直接雇われていること

「正社員登用あり」という求人は、入り口がアルバイト(有期雇用)である場合が多いため、最初から正社員として雇用される求人を選ぶのが確実です。
大手チェーン vs 個人経営店
初めての就職であれば、教育制度や福利厚生が整っている「大手チェーン」をお勧めします。
マニュアルが完備されており、未経験でも基礎から学べる環境が整っていることが多いからです。

個人経営店は自由度が高い反面、教育体制が属人的になりがちで、社会保険などの福利厚生が不十分なケースもあるため、慎重な見極めが必要です。
6.高卒から飲食業界で確かなキャリアを築くために
高卒で飲食業界に進むことは、決してネガティブな選択ではありません。
むしろ、早期に実務経験を積み、20代で管理職や専門職へと駆け上がるための合理的なキャリア選択になり得ます。
大切なのは、漠然とした不安に流されるのではなく、正しい知識を持って「企業を選ぶ」ことです。
この業界は実力主義です。
やる気と行動次第で、学歴の壁を超えてキャリアを切り拓くことができる場所です。
まずは、自分に合った求人を探すところから始めてみてはいかがでしょうか。

