「飲食チェーンの正社員はやめとけ」
インターネット上や求職者の間では、このような言葉が頻繁に聞かれます。
- 長時間労働
- 低い給与水準
- 休めない環境
かつてブラックの代名詞ともされた飲食業界に対し、警戒心を抱くのは無理もありません。
しかし、労働市場のデータや法制度の変遷を詳細に分析すると、その実態は大きく変化しつつあります。
深刻な人手不足を背景に、待遇改善を急ピッチで進めるホワイトな飲食企業と、旧態依然とした企業との二極化が進んでいるのが現状です。
本記事では、飲食チェーン正社員の労働実態と、失敗しない企業選びの基準を解説します。感情論ではなく、法とデータの視点から、この業界で働くリスクとリターンを検証します。
- 飲食業界の「人手不足」がもたらした待遇改善と年収のリアル
- 「きつい」と言われる長時間拘束や中抜けシフトの構造的問題
- 求人票で見落としてはいけない「固定残業代」と「年間休日」のチェックポイント
1.飲食チェーン正社員の「今」。ブラックなイメージは過去のもの?
「長時間労働・休日返上」といった過酷なイメージが強かった飲食業界の正社員。
しかし今、その労働環境は過去の常識を覆すほどの変貌を遂げています。過去10年で起きた変化は、単なる待遇改善を超えた業界の構造改革そのものです。
その最大の要因は、深刻化する構造的な人手不足と、それに伴う圧倒的な売り手市場化。企業が生き残りをかけて取り組む、ホワイト化の最前線を紐解きます。
人手不足が加速させる「ホワイト化」と待遇改善の波
厚生労働省の統計によれば、宿泊業・飲食サービス業の入職率と離職率は共に高く、人材の流動性が極めて高い産業です。
しかし、企業は人材確保のために労働条件の抜本的な見直しを迫られています。なぜなら、コロナ禍を経て需要が急速に回復してきたためです。
具体的には、以下のような動きが見られます。

企業が「選ぶ」時代から、求職者に「選ばれる」時代へとシフトしたことで、労働環境のホワイト化は企業の生存戦略そのものとなっています。
大手チェーンの平均年収は他業界に引けを取らない事実
「飲食は稼げない」という定説も、一部では覆されつつあります。特に大手飲食チェーンのホールディングス(持株会社)ベースでは、全産業の平均給与を上回るケースも珍しくありません。
平均年収が700万円〜900万円台に達する企業も存在します。(※注意:これらの平均年収は、店舗勤務者だけでなく、本部機能を担う幹部候補や専門職(ホールディングス採用)の給与を含んだ数値です。)
- フランチャイズ展開を主軸とする大手カフェチェーン
- 海外展開に成功している回転寿司チェーンなど

しかし、店長クラスであっても、成果に応じた賞与や手当により、年収500万円以上を目指すことは十分に可能なキャリアパスとなっています。
2.具体的に何をする?ホール・キッチン・店長の仕事内容
飲食チェーン正社員の仕事を、単なる「接客」や「調理」の延長線上で捉えてはいけません。その本質は、現場を回しながら利益を生み出す、高度な「店舗マネジメント」にあります。
入社数年で一つの店舗を任される店長は、いわば経営者感覚を養うミニCEOといえます。
ここでは、ビジネスパーソンとしての成長機会となる業務と、一方で避けては通れない労働環境のリアルについて、具体的に掘り下げます。
接客・調理だけではない「店舗経営(マネジメント)」という役割
正社員として採用された場合、早期に求められるのは「店長(ストアマネージャー)」としての役割です。
店長は、いわばミニCEOとも呼べる存在であり、以下の3つの要素を管理する責任を負います。
- ヒト(人材管理):アルバイトの採用、教育、シフト作成、労務管理。
- モノ(商品管理):食材の発注、在庫管理、品質維持、衛生管理(HACCP対応)。
- カネ(数値管理):売上目標の達成、原価率と人件費率の適正化。

これらの業務を通じて培われる対人折衝能力や計数管理能力は、他業界でも通用するポータブルスキル(持ち運び可能な能力)となります。
「きつい」と言われる長時間拘束と中抜けシフトの実態
一方で、飲食業界特有の労働慣行が、依然として「きつい」と感じられる要因となっていることも事実です。
その代表例が「中抜けシフト(アイドルタイム)」です。
ランチ営業とディナー営業の間に休憩時間を挟むこのシフト形態は、実労働時間が8時間であっても、拘束時間が12時間以上に及ぶ場合があります。
このシフト形態では、職場に長時間滞在せざるを得ません。このように、実質的な自由時間が削られることが、ワークライフバランスを損なう大きな要因です。

就職を検討する際は、この勤務形態の有無や運用実態を確認することが推奨されます。
3.失敗しない就職のために。ホワイト飲食企業を見極める3つの基準
数ある飲食企業の中から、本当に従業員を大切にする「ホワイト企業」をどう見つけ出すか。給与の額面やブランドの華やかさだけで選んでしまい、入社後に後悔するケースは後を絶ちません。
重要なのは、求人票やデータに隠された「客観的な事実」を冷静に読み解く力です。
ここでは、求人票や面接で確認すべき「3つのチェックポイント」を解説します。ブラック企業を回避し、長く安心して働ける環境を見極めるために、確認していきましょう。
完全週休2日制の有無
月平均残業時間の確認
から見る「働きやすさ」
1. 年間休日110日以上と完全週休2日制の有無
労働基準法では、休日は「毎週少なくとも1回」与えれば良いとされています(法定休日)。しかし、これだけでは年間休日は52日程度にしかなりません。
ホワイト企業の一つの目安となるのが年間休日110日以上です。これは、完全週休2日制(年間104日程度)に加え、夏季・冬季休暇などが数日ずつ整備されている場合に達成可能な水準です。

求人票に週休2日制(※月1回以上2日の週がある)ではなく、完全週休2日制(※毎週必ず2日休みがある)と明記されているかを確認してください。この確認作業が、長期的な就労を考える上では重要です。
2. 「固定残業代」と月平均残業時間の確認ポイント
飲食業界の求人で頻繁に見られるのが固定残業代(みなし残業代)制度です。これは一定時間分の残業代をあらかじめ給与に含んで支払う制度ですが、ここには注意が必要です。

固定残業時間が月45時間など、法律上の残業上限(36協定)ギリギリに設定されている場合、恒常的な長時間労働が前提となっている可能性があります。
また、固定分を超えた残業代が追加で支払われる旨が明記されているかも、必ず確認すべき事項です。
参考|厚生労働省:固定残業代 を賃金に含める場合は、適切な表示をお願いします
3. 離職率と平均勤続年数から見る「働きやすさ」
企業の体質は、数字に表れます。「就職四季報」や企業の採用ページで公開されている、以下の数値は、客観的な指標となります。
企業体質の客観的な指標
- 3年後離職率
- 平均勤続年数など
飲食業界全体の平均勤続年数は他産業に比べて短い傾向にあります。しかし、次のような企業は、人材定着のための環境整備が進んでいると推測されます。
働きやすい企業の特徴
- 平均勤続年数が10年を超えている
- 新卒3年後離職率が30%を下回っている
4.飲食チェーンから広がる多彩なキャリアパス
「飲食=一生現場仕事」という固定観念は、もはや過去のものです。
現在の大手チェーンにおいて、店舗での経験は単なる労働ではありません。ビジネスの基礎を築く重要な「助走期間」と位置づけられています。
現場で培われる高度なマネジメント能力や経営感覚は、将来的に本部の中枢や海外事業、あるいは独立起業のための有効な武器となります。
ここでは、接客や調理の枠を超え、ビジネスパーソンとしての可能性を広げる多彩なキャリアパスについて解説します。
多彩なキャリアパスの展開
本部の中枢へ
マーケティング、人事、商品開発など経営戦略を担うプロフェッショナルへ
海外事業展開
日本の優れた食文化を世界に発信するグローバルリーダーとしての活躍
独立・起業
現場で培った高度な経営感覚を武器に、自らのビジネスをゼロから創出
接客や調理の枠を超え、ビジネスパーソンとしての可能性を広げる多彩な道が開かれています。
店長から本部スタッフ、海外勤務への道
大手チェーンを中心に、現場経験をステップボードとした多様なキャリアパスが用意されています。
- 本部スタッフへ
- 店長として実績を積んだ後は、以下のような専門職への道が開かれています。

- エリアマネージャー(複数店舗を統括)
- 商品開発
- 店舗開発
- 人事
- マーケティングなど

特に近年では、日本食ブームを背景に海外進出を加速させる企業も増加しています。海外駐在員としてグローバルに活躍するチャンスも広がっています。
独立開業に向けた「修業の場」としての価値
将来的な独立を目指す場合、チェーン店での勤務は、給与を得ながら経営ノウハウを学べる「修業の場」として機能します。
これは、個人店での修業にはないメリットと言えます。
個人店にはないチェーン店での修行のメリット
調理技術だけでなく、下記のような店舗運営のすべてを体系的に習得できる点。
- 計数管理
- 衛生法規
- スタッフマネジメントなど

企業によっては独立支援制度やのれん分け制度を設け、資金調達や物件探しのサポートを行っている場合もあります。
5.正しい知識で企業を選べば、飲食業界は再評価すべきキャリアフィールド
飲食チェーン正社員という働き方は、決して「やめとけ」と一蹴されるべきものではありません。
市場の拡大と人手不足は、働く側にとって待遇改善というメリットをもたらしています。
重要なのは、イメージだけで業界を避けるのではなく、自身のキャリアアンカー(譲れない価値観)と照らし合わせ、法的な知識を持って企業を厳選することです。
ホワイトな環境を選び、店舗経営という高度なスキルを身につけることができれば、飲食業界は未経験からでも活躍できる可能性を秘めています。

