飲食店の正社員として働く中で、「休みがないのは当たり前」「店長だから休めない」と諦めてはいませんか?
実は、その働き方は業界特有の構造的問題であり、場合によっては法律違反の可能性もあります。
本記事では、飲食業界の休日実態をデータで紐解き、違法性の判断基準や、現状を打破するための具体的なキャリア戦略を、労働基準法や最新のキャリア理論に基づき解説します。
- データで見る飲食業界の「休み」の実態と、他産業との比較
- 「週1日休み」「名ばかり管理職」など、労働基準法違反の判断ポイント
- 店長や正社員が休めない構造的な原因と、それを解決するための具体的な行動
1.飲食店の正社員「休みがない」は異常?データで見る業界の現実
「今月も休みが4日しかない」「連休なんて夢のまた夢」など、そのような状況にあるなら、それは決して労働者個人の能力不足や、甘えではありません。
統計データを見ると、飲食業界全体の労働環境が他産業と比較していかに特殊であるかが浮き彫りになります。
全産業ワースト1位:年間休日「97日」という過酷な実態
厚生労働省の調査によると、全産業の労働者1人あたりの平均年間休日総数は116.4日です。
これに対し、宿泊業・飲食サービス業は97.1日〜98.0日程度と推計されており、これは全産業の中で最も低い水準にあります。
| 産業分類 | 平均年間休日総数 | 全産業平均との差 |
|---|---|---|
| 情報通信業 | 120.9日 | +8.8日 |
| 金融業・保険業 | 120.9日 | +8.8日 |
| 卸売業・小売業 | 104.0日〜105.7日 | -6.4日〜-8.1日 |
| 宿泊業・飲食サービス業 | 92.9日〜98.0日 | -14.1日〜-19.2日 |
このデータは、飲食業界で働く正社員が、平均的な労働者と比較して年間で約20日、つまり約3週間分も多く働いているという現実を示しています。

「飲食だから仕方ない」という言葉で片付けるには、あまりにも大きな格差が存在しているのです。
有給休暇取得率の低さと「休めない」同調圧力
休日数だけでなく、有給休暇の取得状況も深刻です。
同調査において全産業の平均取得率が65.3%まで上昇している中、宿泊業・飲食サービス業は45.0%〜51.0%と低迷しています。
背景には、慢性的な人手不足に加え、「みんな休んでいないから言い出せない」という同調圧力や、企業側が「シフト制だから有給は関係ない」といった誤った認識を持っているケースが見受けられます。

有給休暇は労働者の正当な権利であり、業種を問わず付与されるものです。この権利が行使できない状況が常態化していることは、心身の健康を害する大きなリスク要因と言えます。
2.その働き方、法律違反の可能性も。労働基準法から見る「違法ライン」
「週1日・4週4休」
✔法定と所定休日の違い
正しい法的理解が第一歩です。
通用するか?
✔権限と待遇の不一致
肩書きだけで権利は消えません。
法的対応策
✔退職時の権利行使
違法な拒否には対抗可能です。
「休みが少ない」と感じていても、それが直ちに法律違反になるとは限りません。
しかし、法的に許容される「最低ライン」を超えている場合は、違法行為として是正を求めることができます。
ここでは、労働基準法の観点から、合法と違法の境界線を解説します。
労働基準法第35条「週1日・4週4休」の正しい理解
労働基準法第35条では、休日の最低ラインについて以下のように定めています。
使用者は、労働者に対して、毎週少くとも一回の休日を与えなければならない。
二 前項の規定は、四週間を通じ四日以上の休日を与える使用者については適用しない。
つまり、法律上の最低義務は「週に1日」または「4週間で4日」の休日を与えることです。
「土日休みがない」「連休がない」というだけでは、残念ながら直ちに違法とはなりません。
ここで重要になるのが、「法定休日」と「所定休日」の違いです。
法定休日
法律で義務付けられた最低限の休日(週1日など)。働かせた場合は35%以上の割増賃金が必要。
所定休日
会社が独自に定めた休日(公休など)。
週40時間を超えて働かせた場合は25%以上の割増賃金が必要。

もし、「4週間で4日」すら確保されていない場合や、休日出勤をしたのに適切な割増賃金が支払われていない場合は、労働基準法違反の可能性が極めて高いと言えます。
「店長だから残業代なし・休日なし」は通用するか(名ばかり管理職)
「店長になったら残業代が出なくなり、休日も減った」という相談は後を絶ちません。
会社側は店長を労働基準法上の「管理監督者」として扱っているためですが、単に「店長」という肩書きがあるだけでは管理監督者とは認められません。
行政解釈や判例では、主に以下の3つの要件を満たす必要があります。
経営者との一体性
経営方針の決定に参画するなど、重要な職務権限を持っているか。
労働時間の裁量
自分の出退勤時間を自由に決められるか(遅刻や早退で減給されないか)。
待遇の優遇
一般社員と比較して、地位にふさわしい十分な給与(役職手当等)が支払われているか。
多くの飲食店の店長は、シフトの穴埋めで長時間労働を強いられ、出退勤の自由もなく、時給換算するとアルバイトより低いケースさえあります。

これらは典型的な「名ばかり管理職」であり、未払いの残業代や休日手当を請求できる正当な権利があります。
「忙しいから有給は取らせない」への法的対応策
「店が忙しいから有給は無理」と拒否されることがありますが、これは原則として違法です。
会社には「時季変更権」という、有給取得日をずらす権利がありますが、これは「事業の正常な運営を妨げる場合」に限られます。
重要なのは、「恒常的な人手不足」は時季変更権の正当な理由にはなりにくいという点です。
会社は代替要員を確保する努力義務を負っています。

また、退職時の有給消化については、退職日以降に時季を変更することが物理的に不可能なため、会社は一切拒否することができません。
3.なぜ飲食店の正社員は休めないのか?3つの構造的原因
人手不足のしわ寄せ
「仕組み」の欠如
「ロックイン効果」による悪循環
個人の努力や店舗の人間関係だけでなく、飲食業界特有のビジネスモデルや慣習が「休めない」状況を作り出しています。
この構造を理解することは、「自分が悪いわけではない」と認識し、適切な解決策を選ぶために不可欠です。
利益構造の限界と人手不足のしわ寄せ(FLコストの壁)
飲食業はFLコスト(食材費Food+人件費Labor)が高く、利益率が低いビジネスモデルです。
利益を確保するために人件費を抑制しようとすると、固定給である正社員に負荷がかかりやすくなります。

アルバイトが急に休んだ際、追加コストのかからない正社員が「定額使い放題」の穴埋め要員として機能させられてしまう構造が、長時間労働の温床となっています。
シフト管理の属人化と「仕組み」の欠如
多くの店舗では、シフト作成や発注業務が店長個人のスキルや記憶に依存しています。
「店長がいないと回らない」「店長しか分からない業務がある」という属人化が進むと、店長は物理的に休むことができなくなります。

近隣店舗とのヘルプ体制や、誰でも業務ができるマニュアル化などの「仕組み」が整っていない企業では、個人の責任感に依存した運営が限界を迎えることになります。
キャリアの「ロックイン効果」による悪循環
「休みがない」状態が続くと、心身の疲労で思考力が低下し、「転職活動をする時間も気力もない」という状態に陥ります。
また、目の前の業務に追われるあまり、他でも通用するスキルが身につかず、「この歳で飲食以外は無理だ」と思い込んでしまうことがあります。
これをキャリアのロックイン効果と呼びます。現状維持バイアスも働き、過酷な環境に自分を縛り付けてしまう悪循環こそが、最も警戒すべきリスクです。
4.現状を打破するための具体的アクションとキャリア戦略
記録と交渉
求人票のチェックポイント
転職と異業種への挑戦
心身の健康を守り、あなたらしいキャリアを取り戻すためには、現状を変えるための具体的なアクションが必要です。
今の職場でできること:記録と交渉
もし今の職場に愛着があり、環境さえ改善されれば続けたいと考えるなら、まずは事実に基づいた交渉を試みましょう。
勤怠記録をつける
タイムカードやシフト表、業務日誌のコピーを取り、実労働時間を客観的に記録します。
業務の棚卸しと権限委譲
店長業務をリストアップし、アルバイトリーダーに任せられる業務を切り出します。
SVや本部への相談
データ(労働時間や業務量)を基に、人員補充やヘルプ体制の強化を具体的に要望します。

それでも改善が見込めない、あるいは違法状態が放置されている場合は、労働基準監督署などの外部機関への相談や、転職を検討する段階です。
「休める飲食店」を見極める求人票のチェックポイント
飲食業界にも、法令を遵守し、従業員を大切にする「ホワイト企業」は存在します。
転職を検討する際は、以下のポイントを必ずチェックしてください。
年間休日数
最低でも「105日以上」、理想は全産業平均に近い「115日以上」を目安にしましょう。
完全週休2日制
「週休2日制(月に1回以上週2日休みがある)」との違いに注意し、毎週必ず2日休める「完全週休2日制」であるかを確認します。
固定残業代
基本給に何時間分の残業代が含まれているかを確認します。
時間が長すぎる(45時間以上など)場合は、恒常的な長時間労働が前提となっている可能性があります。
飲食業界の経験を活かした転職と異業種への挑戦
飲食店の正社員として培ったスキルは、他業界でも高く評価されるポータブルスキルです。
対人折衝力
多様な顧客に対応するコミュニケーション能力は、営業職やカスタマーサポートで重宝されます。
数値管理能力
売上、原価、人件費の管理経験は、店舗運営やマネジメント職に直結します。
マルチタスク能力
突発的なトラブルに対応しながら複数の業務を進行する力は、事務職や企画職でも活かせます。

「自分には何もない」と諦めず、これまでの経験を自信に変えて、一歩を踏み出してください。
5.心身の健康を守るために、正しい知識で一歩踏み出す
飲食業界における「休みがない」という現状は、多くの場合、個人の努力不足ではなく、業界特有の構造や法的な課題に起因しています。
違法な可能性のある労働環境で無理を重ねることは、心身の健康を損なうだけでなく、将来のキャリアの可能性を狭めてしまうリスクも伴います。
「おかしい」と感じる違和感を放置せず、正しい法的知識を身につけることは、自分自身の生活と権利を守るための第一歩です。
環境を変えることは決して「逃げ」ではありません。
より適正な評価と休息が得られる場所を選ぶことは、労働者にとって正当な権利です。
自身の未来を守るために、まずは現状を客観的に把握し、できることから行動を始めてみてはいかがでしょうか。

