「求人を出しても応募が来ない」
「面接を設定しても連絡が取れなくなる」
「内定を出しても辞退される」
今、まさにこのような壁に直面されている飲食店経営者様、人事担当者様が多いのではないでしょうか。
2025年から2026年にかけ、飲食業界の倒産件数は過去最多を更新し続けていますが、その主な原因の一つが「人手不足」です。
もはや「採用できないこと」は、単なる機会損失ではなく、事業存続に関わる致命的なリスクとなっています。
この記事では、飲食業界における「正社員採用率」の実態と、その構造的な原因を解説します。そして、厳しい市場環境の中でも人材を獲得し、生き残るための具体的な「3つの戦略」を掲示します。
- 有効求人倍率2.97倍という「3店に1店しか採用できない」過酷な市場実態
- 応募が集まらない根本原因である「賃金格差」と「労働環境」のリアルな数字
- 採用率を改善するための「外国人材活用」「DX」「選考スピード」の具体的施策
1.飲食店の正社員採用率、2026年の過酷な実態
2026年の実態
2026年、飲食業界の採用戦線は困難の域を超え、事業存続を賭けた生存競争のフェーズへ突入しました。
過去の成功体験が通用しないこの時代において、まずは市場の温度感を正しく把握する必要があります。
本記事で扱う「採用率」とは、市場全体の需給を示す「有効求人倍率」と、自社の採用力を映す「歩留まり」の双方を指します。
数字の裏にある現実を把握し、生き残るための戦略を考えましょう。
有効求人倍率2.97倍の意味とは?「3店に1店しか採用できない」現実
厚生労働省などのデータによると、飲食業界(特に調理従事者)の有効求人倍率は、全産業平均(約1.2倍)を大きく上回り、最大で2.97倍という高い水準で推移しています。
これは単純計算で、1人の求職者に対して、約2~3店舗がオファーを出している状態です。
さらに厳しい見方をすれば、求人を出している3店舗のうち2店舗は、そもそも採用人数ゼロで終わるという椅子取りゲームが常態化していることを意味します。
参考|厚生労働省:一般職業紹介状況(令和7年10月分)について

求職者は「選ばれる立場」から「選ぶ立場」へと完全にシフトしています。
そんな中、企業側が「雇ってあげる」という意識でいる限り、採用成功は難しい状況と言えるでしょう。
なぜ「採用率(歩留まり)」が計算不能になるのか?応募ゼロのメカニズム
自社の採用活動における採用率(採用決定数 ÷ 応募数)を計算しようとしたとき、「そもそも応募が0件だから計算できない」というケースが増えています。
これは、求人サイト上での競争が激化した結果です。
多くの求人が「似たような時給」「似たようなシフト条件」で並んでいるため、求職者の目に留まらず、クリックすらされません。
結果として、採用プロセスの最初の段階である母集団形成に失敗し、面接率や内定率を議論する以前の段階で詰んでしまっているのです。
倒産リスクとの相関関係:採用できないことは事業継続の終わりを意味する
帝国データバンクの調査でも明らかになっている通り、近年の飲食店倒産の多くは「人手不足倒産」です。

- 人がいないから、席をフル稼働できない(売上機会の損失)
- 人がいないから、既存スタッフが長時間労働で疲弊し、退職する(負のスパイラル)
- 人がいないから、店舗を開けられない(休業・閉店)

採用率の低下は、これらに直結します。採用活動はもはや人事部門だけの業務ではありません。
経営者が最優先で取り組むべき「BCP(事業継続計画)」そのものなのです。
参考|帝国データバンク:「飲食店」の倒産動向(2025年上半期)
2.なぜ飲食店には人が集まらないのか?構造的な3つの原因
では、一体なぜこれほどまでに人が集まらないのでしょうか。
「最近の若者は根性がない」といった安易な精神論に逃げ込んでいては、解決の糸口は掴めません。
問題の本質は求職者の意識ではなく、業界が長年放置してきた構造的な歪みにあります。
そこには他産業と比較して明らかに引けを取っている、もはや「やりがい」だけでは埋められない3つの原因が存在しています。
さらにインフレによる実質賃金の低下
悪循環で現場が疲弊
飲食業界へは戻らない不可逆的な変化
【賃金格差】他産業より月6万円低い給与とインフレの二重苦
最大の要因は、やはり「賃金」です。
全産業の平均賃金と比較すると、宿泊・飲食サービス業の賃金は月額で約6万円も低いというデータがあります。年収に換算すると、賞与等を含め100万円近い差になることもあります。
さらに現在はインフレ(物価高)が進行しています。求職者は生活を守るために、より高い給与を求めざるを得ません。

「やりがい」や「夢」といった言葉だけでは、月々の生活費上昇や将来への不安をカバーしきれないのが現実です。
この経済的な合理性が、求職者を飲食業界から遠ざけています。
【労働環境】「休みが取れない」イメージとワンオペ営業の悪循環
多くの求職者が、飲食業を避ける理由として挙がるのが「休みの少なさ」と「過重労働」です。

- 土日祝日に休めない
- 年間休日が105日以下(他業界は120日が標準)
- 誰かが休むと代わりに出勤しなければならない
また、人手不足を補うための「ワンオペ営業」や「少人数運営」が常態化している店舗も少なくありません。

これらは労働基準法上のリスクが高いだけでなく、求職者にとって「入社したら心身を壊すかもしれない」という強い警戒心を抱かせます。
【人材流出】コロナ禍で去った経験者は二度と戻らない
コロナ禍において、多くの飲食従事者が、物流やIT、医療介護といった他業界へ転職しました。
そこで彼らが経験したのは、「カレンダー通りの休み」や「安定した給与」、そして「テレワーク」といった新しい働き方でした。

一度その環境を手に入れた経験者が、再び不安定で過酷な飲食の現場に戻ってくる可能性は低いと言わざるを得ません。
即戦力となる層が市場から蒸発してしまったことが、採用難易度をさらに押し上げています。
3.採用率を改善するための「攻め」の3大戦略
現状を嘆くだけでは、事態は一刻一刻と悪化するばかりです。
しかし、この絶望的な市況の中でも、確実に人材を確保し、成長を続ける企業は実在します。彼らに共通するのは、従来の採用常識を捨て、痛みを伴う変革をも厭わない姿勢です。
ここからは思考を切り替えましょう。人手不足を解消し、貴社の事業存続と持続的な成長を実現するために着手すべき、具体的かつ実践的な「攻め」の3大戦略をご提案します。
3戦略
戦略的に迎える
賃金を集中
選考離脱を減らす
戦略1:外国人材(特定技能)を「戦力」として戦略的に迎える
日本人採用が困難である以上、外国人材の活用は不可欠な選択肢です。
特に「特定技能」ビザを持つ人材は、一定の日本語能力と技能試験をクリアしており、即戦力としてのポテンシャルを持っています。
実際に、宿泊・飲食サービス業で働く外国人は前年比で約17%も増加しています。

彼らを単なる「数合わせ」として見るのではなく、キャリアパスを用意し、共に成長するパートナーとして迎え入れる体制(マニュアルの多言語化や生活支援など)を整えることが、安定的な労働力確保の鍵となります。
戦略2:DXによる省人化で「人間しかできない業務」に賃金を集中させる
賃金原資を確保するためには、生産性を上げるしかありません。
配膳ロボット、セルフオーダーシステム、自動釣銭機などを導入し、徹底的に省人化を進めましょう。
「機械化はおもてなしの心が…」と躊躇する必要はありません。調査によると、利用客の約9割が機械化に肯定的です。
- 機械に任せられる業務は機械に任せる。
- 浮いた人件費をスタッフの給与アップに充てる。
- スタッフは「笑顔での接客」や「調理の仕上げ」といった、人間付加価値の高い業務に集中する。
この好循環を作ることが、求職者に選ばれる魅力的な職場作りにつながります。
参考|PR TIMES:飲食店の人手不足に関する調査2025
戦略3:スピード対応と情報開示で「選考離脱」を極限まで減らす
応募があった際、面接設定までの連絡はスピード感を持った対応が必要です。有効求人倍率3倍の市場では、求職者は同時に複数社に応募しています。
そのため、「応募から24時間以内の連絡」は必須です。連絡が遅れれば、その間に他社で面接が決まってしまいます。
また、求人票には、以下の情報を記載しましょう。
- 具体的な月給と手当の内訳(固定残業代の金額・時間数など)
- 実際の残業時間の実績
- キャリアパス(入社何年で店長になれるか、その時の年収はいくらか)
「ブラックではないか?」と疑心暗鬼になっている求職者に対し、透明性の高い情報開示はそれだけで信頼獲得につながり、応募のハードルを下げます。
4.採用活動は「経営改革」そのもの
飲食店の正社員採用率の低さは、単なる「人手不足」ではなく、産業構造の変化による必然的な結果です。
これまでのやり方が通用しない今、経営者に求められているのは「意識の転換」です。
- 人件費は「コスト」ではなく、利益を生むための「投資」と捉える
- 「選ぶ」立場から「選ばれる」立場になったことを自覚する
- 法律と従業員の生活を守ることを、経営の最優先事項とする
働きやすい環境への投資は、「定着率の向上」と「採用コストの削減」という形で返ってきます。
まずは自社の求人票を見直し、労働条件が市場に見劣りしていないか、チェックすることが、現状打破に向けた最初の一歩となります。

