飲食業界では、慢性的な「人手不足」が大きな課題です。
その解決策の一つとして、また、より柔軟な働き方を求める個人の受け皿として、「人材派遣」の活用が広がっています。
この記事では、飲食店で派遣スタッフとして働くことを考えている方に向けて、派遣という働き方の基本から、メリット・デメリット、実際の仕事内容、そして登録から就業までの流れまで、知っておくべき情報をわかりやすく解説します。
- 飲食業界で人材派遣が注目される背景(人手不足の実態)
- 企業が派遣会社を選ぶ際の法的ポイントと選び方
- 求職者が飲食派遣で働くメリットとキャリアの考え方
1.飲食業界で「派遣」が注目される背景
なぜ今、飲食業界で派遣サービスがこれほど注目されているのでしょうか。その背景には、業界特有の構造的な課題と、働き方に対する社会全体の意識の変化があります。
飲食店の需要回復と深刻な人手不足、そして拡大を続ける派遣市場 という2つの側面から、その理由を解説します。
背景1:深刻化する「働き手」の不足という課題
現在、飲食業界はコロナが落ち着いたことや、外国人観光客の増加によってお店の活気が戻っています。
しかし、その一方で「働きたい人が足りない」という深刻な問題(人手不足)が大きな壁となっています。
経済産業省も、飲食店サービスでは特にこの人手不足が強まっていると指摘しており、「必要なだけ従業員を確保できない」状況が構造的に続いています 。
このような根本的な問題があるため、「必要な時に、必要な人数だけ」労働力をすぐに確保できる派遣サービスの必要性が急速に高まっています。
働く人の状況が変わり、また飲食業界特有の忙しさの波に対応していくために、派遣サービスは、足りない労働力を埋めるための重要な「解決策」として注目され、活用が進んでいるのです。

企業側の派遣サービス利用の最大の利点は、「必要な時に、必要な人数だけ」労働力をすぐに確保できるという点ですね!
参考:経済産業省|コロナ禍に苦しんだ外食産業、今後の期待は賃上げとインバウンドか
背景2:9兆円を超える派遣市場の全体像
飲食業界の人手不足に対応する派遣サービスは、現代の日本社会において巨大な市場の一部です。
人材派遣市場全体は、既に社会インフラとして不可欠な規模に成長しています。
一般社団法人 日本人材派遣協会の調査によると、2023年度の派遣事業の市場規模(売上高)は9兆円を超え、その影響力の大きさがうかがえます。
また、派遣社員として働く人の総数は、2025年2月時点で約153万人に上ります。
これらの数字は、派遣という働き方が、多くの企業と労働者にとって主要な選択肢の一つとなっており、単なる一時的な手段ではなく、恒常的な労働力供給源となっていることを示しています。
この巨大で安定した派遣市場があるからこそ、人手不足が深刻な飲食業界にとっても、派遣サービスの活用が重要な労働力確保のインフラとなりつつあるのです。

派遣は約153万人が選ぶ、安定した働き方の一つです!
参考:一般社団法人 日本人材派遣協会(JASSA)|労働市場・派遣市場の概要データ(2025年4月版)
2.【まず知るべき共通ルール】労働者派遣の基本

派遣会社を活用する企業側、または派遣社員として働く労働者側、双方が必ず共通して理解しておくべき法的ルールが存在します。
特に重要なのは、業務委託である「請負」と「派遣」との違いを明確に理解することです。これらは雇用や指揮命令系統が大きく異なり、誤解がトラブルの原因となる恐れがあります。
基本的な仕組みと考え方を事前に理解しておくことが、法令違反や将来的なトラブルを未然に防ぐための第一歩となります。
「派遣」「請負」「紹介」はどう違う?
お店の人が「手伝ってほしい」と思ったとき、人を頼むやり方には「派遣」「請負」「紹介」の3つがあり、それぞれ法律で定められたルールが違います。
この3つのうち、一番大きな違いは、実際に働く人に「あれをやって」「こうやって」と誰が仕事の指示を出すかという点です。
派遣
労働者派遣雇用は派遣会社ですが、実際の仕事の指示はお店の店長や社員から直接受けます。
請負
業務請負
仕事の完成が目的。指示は請負会社から受けます。
お店からの直接指示はNG
紹介
人材紹介会社はあくまで仲介役。お店と直接、正社員やアルバイトとして直接契約を結びます。
これらのルールをあいまいにすると、「偽装請負」といった法律違反になってしまう危険があるため、お店で働く人たちはこの違いをきちんと理解しておくことがとても大切です。

ポイントは、実際に働く人に誰が仕事の指示を出すかという点です。法律違反にならないよう、しっかりと理解をしておきましょう!
法的な観点で押さえるべき「労働者派遣法」のポイント
- 給与や福利厚生で不公平な差をつけるのは禁止
- 会社側にはこのルールを守る法的義務がある
- 自分の待遇を守るための強力な武器になる
派遣のお仕事は、「労働者派遣法」という法律で守られています。
この法律の一番の目的は、派遣で働く人が不利にならないよう権利を守り、安心して働けるようにすることです。
特に大切なルールが「同じ仕事には同じお給料(同一労働同一賃金)」という考え方です。
これは、派遣先の会社で正社員の人がやっている仕事と、派遣の人がやっている仕事が同じ内容であれば、お給料や福利厚生などで不公平な差をつけてはいけないというルールです。
会社側はこのルールを守る義務があり、守らないと法律違反になります。
働く人にとっては、自分の待遇が守られるための強力な武器となります。
参考:厚生労働省|労働者派遣法
3.【働きたい方向け】飲食派遣でキャリアを考える
飲食業界で派遣スタッフとして働くことを検討している方へ、キャリアコンサルティングの観点からその働き方を考察します。
派遣は、単なる「仕事」であると同時に、自身のキャリアプランを実現するための一つの「手段」ともなり得ます。
具体的なメリットや仕事内容、そして派遣という形態を自身のキャリアにどう活かす かを解説します。
飲食派遣で働くメリット・デメリット
派遣で働く人にとって一番のメリットは、「働き方の自由度が高いこと」です。
働く時間や曜日、お店の場所などを、自分の生活や都合に合わせて選びやすいという柔軟性があります。
また、「未経験でもOK」という求人が多いため、飲食業界が初めてでも挑戦しやすく、新しい仕事や職場を経験する良いチャンスになります。
いろいろなお店で働くことで、たくさんのスキルを身につけられる可能性もあります。
一方で、デメリットもあります。
派遣は働く期間があらかじめ決まっているため、お店に直接雇われる場合と比べると、雇用の安定性は低い場合があります。
また、派遣社員は昇進したり、大きくお給料が上がったりする機会が限られることが多いです。
そのため、将来のキャリア(仕事の道筋)については、自分でしっかり考えて計画していくことが大切になります。
未経験でも可能?具体的な仕事内容(ホール・キッチン等)
「飲食店の仕事は初めて」という人でも、派遣なら挑戦できる求人がたくさんあります。
具体的な仕事内容は、主に二つの場所での基本業務が中心です。
一つは「ホールスタッフ」で、お客さんを席へ案内したり、注文を聞いたり、料理を運んだりする接客の仕事です。
もう一つは「キッチンスタッフ」として、簡単な料理の手伝いや、食材の準備、そして食器を洗う洗い場の仕事などです。
これらの仕事は、特別な資格や難しいスキルがなくても、すぐに覚えることができる飲食店の基本となる業務です。
そのため、飲食業界で働きたい人がキャリアを始めるための第一歩として、とても適しています。まずはこれらの仕事から経験を積み、自信をつけていくことがおすすめです。
派遣という働き方の位置づけ
派遣という働き方は、ただお金を稼ぐだけでなく、自身のキャリアをデザインするための大切な道具になります。
例えば、いろいろな飲食店で働くことで、業種が変わっても役に立つ「どこでも使える能力」(ポータブルスキル)を意識して高めることができます。
これは、上手な接客の仕方、何か問題が起きたときの解決能力、衛生管理の知識などです。
また、将来的にそのお店の正社員になるための準備期間として利用したり、自分のお店を開くために必要な現場の技術やノウハウを学ぶ「修行の場」として、計画的に派遣を活用することもできます。
一番大切なのは、派遣での経験一つひとつを「やったこと」で終わらせず、次にどんな仕事や目標に結びつけるかを自分でしっかり考えることです。
登録から就業までの一般的な流れ
派遣で働き始めるには、まず派遣会社のウェブサイトや電話で「スタッフ登録」をします。
登録が終わると、担当者との面談を行います。
ここでは、今までどんな仕事をしたかという経験や、「いつ、どこで、どんな仕事がしたいか」という希望を詳しく伝えます。
希望にぴったりの仕事が見つかると、派遣会社からその仕事が紹介されます。
お店(派遣先)によっては、実際に働く前に職場を見学したり、お店の人と簡単な顔合わせをしたりすることもあります。
紹介された仕事で「働きたい」とお互いに合意すれば、求職者と派遣会社(派遣元企業)の間で「雇用契約」を結びます。
これで準備完了です。契約で決めた日から、紹介されたお店(派遣先)での勤務がスタートします。
その後、派遣会社によるアフターフォローも行われます。
4.飲食業界の派遣に関する「よくある質問」

最後に、飲食業界の派遣に関して、企業担当者と働きたい方の双方からよく寄せられる共通の疑問について、Q&A形式で解説します。
費用相場や働き方の柔軟性、そして社会保険の加入要件など、実務的で重要なポイントを取り上げます。
Q. 派遣で働くと時給はどれくらいもらえますか?
飲食店の派遣スタッフの時給は、地域や仕事内容、あなたの経験やスキルによって異なります。
一般的には、ホールスタッフやキッチン補助などの未経験でもできる仕事で、時給1,200円〜1,500円程度が相場です。
都心部や、スキルが必要な調理業務、深夜帯の勤務などでは、さらに高い時給が設定されることもあります。また、派遣会社によっては交通費が別途支給される場合もあるため、登録時に詳しく確認しましょう。
Q. 1日だけの「スポット派遣」も可能ですか?
はい、可能です。
飲食業界では、週末の特に忙しい日や、お祭りのような大きなイベントがある時など、短期・単発の求人が豊富にあります。
「1日だけ働きたい」「週末だけ働きたい」といった柔軟な働き方にも対応している派遣会社が多く、学生やWワークをしている方、子育て中の方など、さまざまなライフスタイルに合わせた働き方が実現できます。
登録する派遣会社に、あなたの希望する働き方を伝えることで、ぴったりの求人を紹介してもらえます。
Q. 派遣スタッフとして働く場合、社会保険には入れますか?
派遣スタッフとして働く場合でも、条件を満たせば「社会保険」に入る義務があります。
社会保険には、働けなくなったときや失業したときのための「雇用保険」や、病気や老後に備える「健康保険」「厚生年金」などがあります。
例えば、「雇用保険」は、原則として1週間の働く時間が20時間以上で、31日以上続けて働く見込みがあれば加入することになります。
また、「健康保険」や「厚生年金」も、週に働く時間やもらえるお給料の額が、一定の基準を超えると、加入の対象になります。
これは、働くお店の大きさによっても少し基準が変わることがあります。
大切なのは、これらの保険は働く人を守るためのものなので、自分が加入できるのかどうか、詳しい条件は登録する派遣会社に必ずしっかり確認することです。
6.飲食業界で自分に合った働き方を実現する「派遣」という選択肢
飲食業界の派遣について、働き方の基本からキャリアの考え方まで解説しました。
派遣という働き方は、柔軟なシフトで自分のライフスタイルに合わせて働けるだけでなく、さまざまな職場を経験しながらスキルを磨き、主体的にキャリアをデザインしていける選択肢です。
「労働者派遣法」という法律によって、権利や待遇はしっかりと守られています。 派遣という働き方を正しく理解し、自分に合った派遣会社を選ぶことで、飲食業界でのキャリアを充実させていきましょう。

