飲食業は「きつい」とよく言われますが、その実態はどうなのでしょうか。
本記事では、公的なデータを用いて労働環境を客観的に分析し、「きつい」と言われる理由について解説します。
また、やりがいや優良な職場の見つけ方、円満退職の知識までご紹介します。
- 公的データに基づく飲食業界の平均年収や休日、離職率の実態
- 労働時間や給与、人間関係など「きつい」と言われる具体的な5つの理由
- 「きつい」だけではない飲食業のやりがいと、優良企業を見極める3つの視点
1.共感の前に事実確認。データで見る飲食業界の労働環境

「飲食業界はきつい」というイメージは、感情論だけではありません。
まずは公的なデータから、労働環境のリアルな姿を見ていきましょう。
平均年収はどれくらい?
平均年収の比較
宿泊業・飲食サービス業
279万円
全業種平均
478万円
国税庁の「令和6年分 民間給与実態統計調査」によると、宿泊業・飲食サービス業の平均年収は279万円です。
これは、全業種の平均478万円と比較すると低い水準にあります。

ただし、これはあくまで平均値なので、企業規模や役職、個人のスキルによって年収600万円以上を目指すことも可能です。
年間休日の実態は?
年間休日総数の比較
宿泊業・飲食サービス業
105.8日
全業種平均
116.4日
労働基準監督署の「令和6年 年間休日総数階級別企業数割合」によれば、宿泊業・飲食サービス業の年間休日総数の平均は105.8日でした。
これは全業種の平均116.4日より少なく、休日が比較的少ない業界であることがわかります。
参考:労働基準監督署|令和6年 年間休日総数階級別企業数割合
離職率は高いのか?
離職率の比較
宿泊業、飲食サービス業の離職率
25.1%
全業種の平均離職率
14.2%
※ 宿泊業・飲食サービス業は全業種の約1.8倍の離職率
「令和6年雇用動向調査結果」を見ると、宿泊業、飲食サービス業の離職率は25.1%と、全業種の14.2%を大幅に上回っています。
この数字から、業界内での人材の入れ替わりが激しいことがわかります。
2.飲食店で働くのが「きつい」と言われる5つの主な理由
5つの理由
労働時間と休日の問題
体力的負担の大きさ
給与・待遇への不満
精神的負担
人間関係の悩み
データで見た労働環境の現実は、多くの人が「きつい」と感じる背景となっています。
ここでは、その具体的な理由を5つに整理して解説します。
理由1:労働時間と休日の問題(長時間労働・不規則なシフト)
飲食業界は、お客様が活動する時間に営業するため、必然的に土日祝日の勤務が多くなります。
また、ランチとディナーの間に長い休憩時間(中抜け)があったり、営業後の片付けで退勤が深夜になったりと、拘束時間が長くなる傾向にあります。
人手不足の店舗では、十分な休日が確保しにくいという課題も深刻です。

家族や友人と休みが合わないなど、プライベートとの両立に悩む人も多いです。
理由2:体力的負担の大きさ(立ち仕事・体力勝負)
飲食店の仕事は、基本的に立ち仕事です。
長時間の立ち仕事や重い食材の運搬、厨房での熱気など、体力的な負担は非常に大きいと言えます。特にピークタイムの忙しさは凄まじく、休憩を取る暇もないこともあります。
理由3:給与・待遇への不満
先ほどのデータで示した通り、飲食業界の平均年収は他業種と比較して低い水準にあります。
労働時間や体力的・精神的負担の大きさに、給与が見合っていないと感じることが、不満や離職の大きな原因となっています。
理由4:精神的負担(クレーム対応)
お客様と直接関わる接客業であるため、時には理不尽なクレームを受けることもあります。
従業員に非がない場合でも、店の代表として謝罪しなければならない場面もあり、精神的に大きなストレスを感じる人も少なくありません。
理由5:人間関係の悩み
飲食店は比較的狭い空間で、少人数のスタッフが長時間一緒に働く職場です。
そのため、一度人間関係がこじれると、仕事に行くこと自体が大きな苦痛になりかねません。

特に、店長や料理長など、店舗の責任者との相性は、働きやすさに直結する重要なポイントです。
3.「きつい」だけではない。飲食業界で働くことで得られる価値
「きつい」だけじゃない!得られる3つの価値
お客様からの「ありがとう」が直接聞けるやりがい
実践で身につくポータブルスキル
多様なキャリアパスの可能性
厳しい側面がある一方で、飲食業界でしか得られない大きなやりがいや価値も存在します。
ここでは、その代表的なものを3つご紹介します。
価値1:お客様からの「ありがとう」が直接聞けるやりがい
自分が作った料理や提供したサービスに対して、お客様から直接「美味しかった」「ありがとう」という言葉をもらえることは、何物にも代えがたい喜びです。

お客様の笑顔が、日々の疲れを癒やし、仕事へのモチベーションに繋がります。
価値2:実践で身につくポータブルスキル
飲食業界では、どんな業界でも通用する「ポータブルスキル」が実践の中で磨かれます。
飲食業界で磨かれる具体的なスキル
- コミュニケーション能力
- チームワーク
- クレーム対応能力
- マルチタスク能力
これらのスキルは、将来のキャリアを考える上で大きな財産となります。
価値3:多様なキャリアパスの可能性(店長・本部・独立)
多様なキャリアパスの具体例
- マネジメント職
- 本部スタッフ
- 独立開業
現場での経験を積むことで、店長やエリアマネージャーといったマネジメント職への道が開けます。
また、スーパーバイザーや商品開発、マーケティングなど、本社機能を持つ企業であれば本部スタッフへのキャリアチェンジも可能です。
さらに、「自分のお店を持つ」という独立開業の夢を実現できるのも、この業界ならではの魅力です。
4.「きつい職場」を避ける、優良な飲食企業を見極める3つの視点
優良な飲食企業を見極める3つの視点
求人票で確認すべき労働条件
企業の「働き方改革」への具体的な取り組み
店舗の清潔感と従業員の表情
深刻な人手不足を背景に、飲食業界全体で働き方改革が進んでいます。つまり、求職者が主体的に「働きやすい職場」を選べる時代になりつつあるのです。
ここでは、優良企業を見極めるための3つの視点をご紹介します。
視点1:求人票で確認すべき労働条件(年間休日数など)
求人票は給与だけでなく「年間休日」の項目を必ずチェックしましょう。
チェックポイント
- 年間休日120日以上
- 完全週休2日制
「年間休日120日以上」などを掲げる企業は、従業員のプライベートを尊重する意識が高いです。
また、「完全週休2日制」といった休日制度も重要な判断材料です。
視点2:企業の「働き方改革」への具体的な取り組み
企業の採用サイトや公式サイトで、働き方改革に関する具体的な取り組みが紹介されているかを確認しましょう。
具体的な取り組み例
- ITツール導入による業務効率化
- 明確な評価制度
- 独立支援制度
「ITツール導入による業務効率化」「明確な評価制度」「独立支援制度」など、従業員の定着と成長を本気で考えている企業は、その姿勢を積極的にアピールしているはずです。
視点3:店舗の清潔感と従業員の表情
もし可能であれば、応募を考えている企業の店舗を実際に訪れてみましょう。
店内の清掃が行き届いているか、そして何より、働いている従業員に笑顔や活気があるかは、その職場の労働環境を映す鏡です。
忙しい中でも従業員同士が助け合っている様子が見られれば、良好な人間関係が築かれている可能性が高いでしょう。
5.「きつい」から抜け出したいと考えたときの選択肢

もし、今の職場がどうしても「きつい」と感じ、転職や退職を決意した場合には、計画的に行動することが重要です。
ここでは、円満退職の方法と、その後のキャリアの可能性について解説します。
円満に退職するための手続きと注意点
円満退職の鍵は、計画的な引継ぎと丁寧なコミュニケーションです。
法律上は、期間の定めのない雇用契約の場合、退職の意思表示から2週間で退職できます。
しかし、円満な退職と業務の引継ぎを考慮すると、まずは就業規則で定められた予告期間を確認することが重要です。一般的には1~3ヶ月前には直属の上司に相談することが望ましいでしょう。
強い引き留めにあった場合でも、最終的には退職届を提出すれば退職できます。

退職後の失業保険の受給に不可欠な「離職票」などの書類は、忘れずに必ず会社から受け取るようにしましょう!
飲食業界の経験を活かせる次のキャリアとは
飲食業界で培った経験は、他業種でも高く評価されつため、さまざまなキャリアチェンジが考えられます。
キャリアチェンジの具体例
- コミュニケーション能力を活かして営業職や販売職へ
- マネジメント経験を活かして店舗運営コンサルタントへ
- 食への興味や知識を活かして食品メーカーの商品開発や、IT企業の飲食店向けサービス担当へ
他の業種でも活かせそうな、自分の得意分野を見つけてみましょう。
6.未来は選べる。きつい現状を乗り越える次の一歩へ
飲食業界は、データが示す通り「きつい」側面を持つことは事実です。
しかし、人手不足を背景とした労働環境の改善は確実に進んでおり、やりがいや多様なキャリアパスといった魅力も数多く存在します。
大切なのは、「きつい」という現実から目を背けるのではなく、その原因を冷静に分析し、自分に合った働き方を主体的に選択することです。
この記事で紹介した優良企業の見極め方やキャリアの選択肢が、より良い職業人生を歩むための参考になれば幸いです。