飲食業界での仕事を検討する際、アルバイトより時給が高い「派遣」は魅力的な選択肢です。しかし、仕組みや実際の業務内容、権利関係については、複雑で分かりにくい点も少なくありません。
本記事では、飲食派遣が高時給である構造的な理由から、職種別の具体的な仕事内容、そして有給休暇や社会保険といった法的に守られた権利までを解説します。
賢く稼ぎながらキャリアを築くための判断材料を提供します。
- 飲食派遣の時給がアルバイトより高い構造的な理由
- ホールやキッチンなど職種別の業務内容と求められる適性
- 有給休暇や社会保険など派遣スタッフに保障された法的権利
1.なぜ今「飲食派遣」が選ばれるのか?アルバイトとの決定的な違い

飲食業界において「派遣」という働き方が選択される背景には、直接雇用のアルバイトとは異なる雇用構造と、それに起因する経済的な合理性が存在します。ここでは、給与面や契約形態の違いについて解説します。
時給が高く設定される構造的な理由
一般的に、飲食店の派遣スタッフの時給は、直接雇用のアルバイトと比較して高く設定される傾向にあります。これには明確な理由が存在します。
①店舗側(派遣先)にとっては、求人広告費や採用・教育コストを店舗側が負担する必要がない分、派遣会社への支払対価が高めに設定され、それがスタッフの時給に還元される
②即戦力として繁忙期のみの人員補充を求めるケースも多く、需給バランスの関係から高い賃金が提示される要因となる
雇用契約と指揮命令系統の違い
アルバイトの場合、働く店舗と直接雇用契約を結びますが、派遣スタッフの場合、雇用契約を結ぶのは「派遣会社」となります。
- 実際の業務指示(指揮命令)…店舗の責任者から受ける
- 給与の支払いや社会保険の手続き、福利厚生の提供…派遣会社
この仕組みにより、店舗側とのトラブルが発生した場合でも、雇用主である派遣会社が間に入り、調整や交渉を行うことが可能です。
【比較表】飲食派遣 vs 直雇用アルバイト
| 項目 | 飲食派遣 | 直雇用アルバイト |
|---|---|---|
| 雇用主 | 派遣会社 | 勤務先の店舗 |
| 時給相場 | 高め(+数百円のケースも) | 地域の最低賃金~平均水準 |
| 勤務期間 | 有期(契約更新あり/単発も可) | 長期が前提のことが多い |
| 業務内容 | 契約で定められた範囲に限定 | 状況に応じて幅広く対応 |
2.ホール・キッチン・洗い場…飲食派遣の具体的な仕事内容と「きつい」のリアル
ホール・キッチン・洗い場に求められるスキル
ホールスタッフ
接客スキルと即戦力性 重要度 High
キッチンスタッフ
調理技術と衛生管理 重要度 High
洗い場(スチュワード)
集中力とスピード 重要度 Max
「派遣はきついのではないか」という懸念に対しては、職種ごとの業務特性と、求められるスキルレベルを正しく理解することで、ミスマッチを防ぐことが可能です。
ホールスタッフ:接客スキルと即戦力性
ホール業務の派遣では、オーダーテイク、配膳、片付けなどの接客全般を担当します。派遣スタッフには、店舗ごとの細かいルールに素早く適応し、即座にフロアに立てることが期待されます。
ホテルや高級レストランの案件では、高いマナーや語学力が求められる一方で、時給はさらに高額になる傾向があります。
未経験者の場合、まずはファミレスや居酒屋などのチェーン店からスタートし、経験を積むケースが一般的です。
キッチンスタッフ:調理技術と衛生管理
キッチン業務では、仕込み、調理、盛り付けなどを担当します。調理師免許や経験が必須の案件と、簡単な盛り付けや補助のみを行う未経験可の案件に分かれます。
特に調理経験者は重宝され、専門的な技術(和食、イタリアンなど)を持つ場合、高待遇で迎えられる可能性があります。食品衛生責任者などの資格保有も評価の対象となります。
洗い場(スチュワード):集中力とスピード
接客や調理を行わず、食器洗浄に特化した「洗い場」の派遣ニーズも存在します。特別なスキルは不要ですが、繁忙時には大量の食器を迅速に処理するスピードと体力が求められます。
対人関係のストレスが比較的少ないため、黙々と作業に集中したい場合に適した職種と言えます。
「きつい」と感じる要因と対策
派遣スタッフが「きつい」と感じる主な要因として、即戦力としてのプレッシャーや、職場ごとの人間関係の変化が挙げられます。

しかし、これは裏を返せば「人間関係が固定化されない」「契約期間満了で次の職場へ移れる」という、派遣ならではのメリットでもあります。
自身に適した職場環境を見つけるまでのトライアル期間と捉えることも可能です。
3.ここが知りたい!飲食派遣のメリットとデメリット

キャリア形成の視点から、飲食派遣という働き方のメリットとデメリットを整理します。
メリット:効率的な収入確保とスキルの棚卸し
飲食派遣のメリット
- 短期間で効率よく収入を得られる
- 様々な業態(ホテル、カフェ、レストラン)を経験することで、自身の適性を見極められる
- ポータブルスキル(適応力やコミュニケーション能力)を磨く機会となる
紹介予定派遣制度を利用すれば、一定期間派遣として働き、双方の合意があれば正社員として直接雇用される道も開かれています。これは入社後のミスマッチを防ぐ有効な手段です。
デメリット:雇用の安定性と教育体制
一方で、契約期間の定めがあるため、長期的な雇用の安定性という点では正社員に劣ります。
また、店舗側は派遣スタッフを「即戦力」とみなす傾向があるため、丁寧な研修制度が用意されていない場合があります。自律的に業務を覚え、質問する姿勢が求められます。
4.【法律知識】知っておくべき「派遣スタッフの権利」

「派遣だから保障がない」という認識は、法的には誤りです。労働者派遣法および労働基準法により、派遣スタッフにも正当な権利が保障されています。
有給休暇の取得権利
派遣スタッフであっても、6ヶ月間継続勤務し、全労働日の8割以上出勤していれば、年次有給休暇が付与されます。
有給休暇の申請先は、雇用主である「派遣会社」です。派遣先店舗の都合にかかわらず、法律上の要件を満たせば取得する権利が発生します。
社会保険の加入要件
雇用期間や労働時間が一定の基準(週20時間以上など)を満たす場合、雇用保険や社会保険(健康保険・厚生年金)への加入が義務付けられています。
派遣会社にはこれらの加入手続きを行う義務があります。これにより、失業時の給付や、将来の年金受給において保護を受けることができます。
参考:厚生労働省|従業員のみなさま 社会保険加入のメリットや手取りの額の変化について
同一労働同一賃金による待遇改善
2020年の法改正により「同一労働同一賃金」が導入されました。これは、同じ職務内容であれば、正規雇用労働者と非正規雇用労働者(派遣含む)の間で不合理な待遇差を設けることを禁じるものです。
これにより、派遣スタッフの賃金水準や通勤手当などの待遇改善が進められています。
5.失敗しない飲食派遣会社の選び方と就業までの流れ
飲食派遣会社の選び方と就業までの流れ
チェックポイントを基準に派遣会社を選ぶ
登録から就業までは
Web登録・面談
仕事紹介
職場見学(顔合わせ)
就業開始
安心して働くためには、信頼できる派遣会社(人材会社)を選ぶことが重要です。
派遣会社選びの3つのチェックポイント
- 労働者派遣事業の許可番号
ウェブサイトや会社概要に「派xx-xxxxxx」という許可番号が記載されているか確認します。これは厚生労働省の許可を受けて適正に運営されている証拠です。 - 求人数の多さと専門性
飲食業界に特化しているか、または希望するエリアや職種の求人を豊富に持っているかを確認します。 - サポート体制
トラブル時の相談窓口が設置されているか、また社会保険の手続きが迅速に行われるかどうかも重要な判断基準です。
登録から就業までのステップ
一般的な流れは以下の通りです。
- Web登録・面談
派遣会社のサイトから登録し、スキルや希望条件を伝えます。 - 仕事紹介
条件に合う求人の紹介を受けます。職務内容や時給、勤務地などを確認します。 - 職場見学(顔合わせ)
必要に応じて派遣先店舗を見学し、雰囲気を確認します。 - 就業開始
雇用契約を結び、勤務を開始します。
6.飲食派遣で賢く稼ぎキャリアを広げる選択を
飲食派遣は、単なる労働力の提供ではなく、自身のスキルを磨きながら効率的に収入を得るための有効なキャリア戦略です。
時給の高さだけでなく、有給休暇や社会保険といった法的な権利もしっかりと整備されています。
仕組みを正しく理解し、信頼できる派遣会社を選ぶことで、ライフスタイルに合わせた柔軟な働き方が実現可能です。自身のキャリア形成の一歩として、飲食派遣は有力な選択肢の一つと言えるでしょう。