「うちは飲食だから、有給なんてないよ」
アルバイト先で、店長からこのように言われた経験を持つ方も少なくありません。
人手不足が常態化している飲食業界では、シフトを回すことに精一杯で、アルバイトの有給休暇について曖昧にされているケースが少なくありません。
しかし、飲食店であっても、アルバイトやパートであっても、法律上の条件を満たしていれば必ず有給休暇は取得できます。
「飲食業界だから」という理由に、法的な効力はありません。
この記事では、本来持っている権利(有給の日数)を正しく計算する方法と、もし店長に拒否された場合にどう伝えれば角を立てずに権利を行使できるか、その具体的な交渉術を解説します。
- 週の勤務日数に応じた、自分の正確な「有給休暇の日数」
- 「代わりを探して」と言われた時の、法的に正しい返し方
- 退職時に有給を使い切るためのスケジュールと注意点
1.結論:飲食店でもパート・アルバイトに有給休暇はある
まず、最も重要な前提を共有します。有給休暇(年次有給休暇)は、労働基準法第39条で定められた「労働者の権利」です。
この権利の発生条件に、業種(飲食、小売り、オフィスワークなど)や雇用形態(正社員、契約社員、アルバイト、パートなど)による区別はありません。
「飲食店だから有給がない」という主張は、法律の観点からは完全に誤りです。
業界の取得率51.0%の現実と「これから」
なぜ飲食では有給がないという誤解がまかり通っているのでしょうか。
厚生労働省の令和6年就労条件総合調査によると、宿泊業・飲食サービス業の有給休暇取得率は51.0%と、全産業の中で最も低い水準にあります。
全体の平均が65.3%であることを考えると、飲食業界特有の休みにくい雰囲気があることは事実です。
しかし、状況は変わりつつあります。深刻な人手不足により、現在は求職者が優位な売り手市場です。
企業側も有給が取れることをアピールしなければ人が集まらない状況になりつつあるため、正しい知識を持って交渉すれば、権利を認められる可能性は以前よりも高まっています。
2.自身の付与日数を確認:有給休暇の発生条件と日数一覧
では、具体的に何日の有給休暇がもらえるのかを確認しましょう。有給休暇が発生するためには、以下の2つの条件を満たす必要があります。
- 雇入れの日から6ヶ月間継続勤務していること
- 全労働日の8割以上出勤していること

この2点を満たしていれば、たとえ週1日のアルバイトであっても有給休暇は付与されます。
【早見表】週の勤務日数別・付与日数
パート・アルバイトの場合、付与される日数は「週の所定労働日数」によって決まります(比例付与)。
以下の表で、自身の契約内容と勤続年数を照らし合わせてみてください。
| 週の労働日数 | 6ヶ月 | 1年6ヶ月 | 2年6ヶ月 | 3年6ヶ月 | 4年6ヶ月 | 5年6ヶ月 | 6年6ヶ月以上 |
|---|---|---|---|---|---|---|---|
| 週4日 | 7日 | 8日 | 9日 | 10日 | 12日 | 13日 | 15日 |
| 週3日 | 5日 | 6日 | 6日 | 8日 | 9日 | 10日 | 11日 |
| 週2日 | 3日 | 4日 | 4日 | 5日 | 6日 | 6日 | 7日 |
| 週1日 | 1日 | 2日 | 2日 | 2日 | 3日 | 3日 | 3日 |
※週の所定労働時間が30時間以上の場合は、正社員と同じ日数が付与されます。
例えば、週4日勤務のアルバイトの場合、入社から半年後に7日、3年半働けば年間10日の有給休暇が付与されます。
これは決して少ない日数ではありません。
年5日の取得義務化はバイトにも適用される?
2019年から「年5日の有給休暇取得」が企業に義務付けられましたが、これはアルバイトにも適用されるのでしょうか。
結論から言えば、年10日以上の有給休暇が付与される労働者であれば、アルバイトでも対象になります。
先ほどの表を見ると、週4日勤務で3年6ヶ月以上勤務している人や、週3日勤務で5年6ヶ月以上勤務している人などがこれに該当します。
対象者であるにも関わらず、会社が年5日の有給を取得させなかった場合、会社側には従業員1人につき30万円以下の罰金が科される可能性があります。
3.いくらもらえる?有給取得時の給料(賃金)計算方法
有給休暇を取得した際に支払われる賃金には、いくつかの計算方法がありますが、多くの飲食店(時給制)では以下の方法が採用されています。
- 所定労働時間 × 時給
例
時給1,200円で1日5時間の契約をしている場合
「1,200円 × 5時間 = 6,000円」が有給休暇1日分として支払われます。
【重要】就業規則の確認:「平均賃金」で計算されるケース
これは過去3ヶ月の給与総額を暦日数で割って算出するため、シフトが減っていた時期などは、通常の時給換算よりも金額が低くなることがあります。

就業規則を確認し、勤務先(店舗)がどの計算方法を採用しているかを確認しておくことが重要です。
4.「人が足りない」と言われたら?店長への交渉術と伝え方
「人が足りない」と言われたら?
法律上の権利だと頭では分かっていても、常に忙しそうにしている店長や、慢性的な人手不足という職場の空気を前にすると、どうしても言い出しにくいのが本音ではないでしょうか。
しかし、気まずさを恐れて泣き寝入りする必要はありません。大切なのは、相手の事情に配慮しつつ、こちらの希望を上手く伝える「交渉の工夫」です。
ここでは、職場の人間関係を悪化させず、円満に有給を取得するための具体的な伝え方を紹介します。
喧嘩腰にならずに「相談」のスタンスで
いきなり「法律で決まっています!」と詰め寄るのは得策ではありません。

これからもここで働きたいという意思を見せつつ、あくまで相談のスタンスで切り出すのがポイントです。
よくある拒否理由と切り返しトーク(FAQ)
ケース1:「代わりを自分で探して」と言われた場合
飲食店で最も多いパターンです。しかし、法的には人員配置やシフト調整は使用者(店側)の義務であり、労働者が代わりを探す義務はありません。
おすすめの返し方
「シフトの調整にご迷惑をおかけして申し訳ありません。可能な限り周りのスタッフにも声をかけてみますが、どうしても見つからない場合は、店長の方で調整をお願いできないでしょうか。」

※探す努力を見せることで、心証を良くしつつ、最終的な責任は店側にあることを伝えます。
ケース2:「繁忙期だから無理」と言われた場合
会社には「時季変更権」といって、事業の正常な運営が妨げられる場合に限り、有給の取得日を変更させる権利があります。
超繁忙期で、その人がいないと店が回らないといった極端なケースでは認められることがあります。
しかし、単なる「慢性的な人手不足」や「シフト調整不足」は、法的な正当事由として認められにくい傾向にあります。
おすすめの返し方
「お忙しい時期に申し訳ありません。では、来月の〇日~〇日の間であれば調整可能でしょうか?
この期間中に〇日分取得させていただけると助かります。」

※絶対にこの日と固執せず、代替案を提示することで、取得自体を拒否させない方向に持っていきます。
揉めずに取るための申請タイミング
シフトが確定した後に有給申請をすると、店側は再調整の手間がかかり、拒否反応を示しやすくなります。
シフト希望を提出する段階、あるいはそれより前に「この日に有給を使いたい」と伝えるのがマナーであり、スムーズな方法です。
5.退職時の有給消化と「買取」の真実
最後に、退職時の有給休暇について解説します。「辞める時に残った有給を全部使いたい」というのは、多くの人が考えることです。
アルバイトを辞める際、特に気になるのが「残っている有給休暇の扱い」ではないでしょうか。
「最後にまとめて休んでいいのか」
「使い切れない分はお金に換えてもらえるのか」
これらをあいまいにしたまま辞めると、後味の悪い結果になりかねません。しかし、買取には法的に厳しい条件があるのも事実です。
ここでは、退職時に揉めることなく権利を行使するための正しいルールと、よくある買取への誤解について整理します。
辞める時にまとめて使うのはアリ?
退職時に残っている有給休暇をまとめて消化することは、労働者の正当な権利です。
退職日が決まってしまえば、会社側は「時期をずらしてほしい(時季変更権)」を行使することができません(退職日より後ろにはずらせないため)。
ただし、引継ぎもせずに突然「明日辞めます、残りは全部有給で」というのはトラブルの原因になります。
円満に退職するためには、最終出勤日から逆算して、引継ぎ期間も含めたスケジュールを早めに店長と相談することが不可欠です。
有給の買取ができる3つの例外ケース
原則として、有給休暇の買取は法律で禁止されています(休養を取らせるという趣旨に反するため)。
しかし、以下の例外的なケースでは買取が認められることがあります。
- 退職時に使い切れなかった有給休暇
- 法律で定められた日数(法定付与日数)を超えて会社が独自に与えていた休日
- 時効(2年)により消滅してしまった有給休暇
特に、退職時については、会社との合意があれば買取が可能です。ただし、これは会社の義務ではないため、就業規則に規定がない場合は拒否されることもあります。
「買い取ってもらえたらラッキー」程度に考え、基本的には「消化して辞める」計画を立てるのが賢明です。
トラブルになった時の相談先
もし、「有給取得を理由にシフトを減らされた」「退職時の消化を拒否された」といった悪質な対応をされた場合は、労働基準監督署へ相談することを検討してください。
その際、以下の書類を持参すると、スムーズに相談が進みます。
相談時に持参おすすめリスト
- シフト表や給与明細
- 就業規則のコピー(禁止している会社もあります)
- 店長とのやり取りの記録(メールやLINE、メモなど)
6.正しい知識は、自身の権利を守るための重要な基盤となります
飲食店だからという理由で有給休暇を諦める必要はありません。
- 6ヶ月勤務・8割出勤で、アルバイトでも有給は発生する
- 週の勤務日数に応じた付与日数を把握する
- 「代わりを探す」義務は労働者にはない
- まずはシフト作成前に「相談」ベースで切り出す
この4点を押さえておくだけで、働き方は大きく変わります。
まずは、直近の給与明細や就業規則を確認することから始めてみてはいかがでしょうか。
正しい知識を武器に、納得のいく働き方を実現しましょう。

