飲食業界で働き始めると、現場で飛び交う独特の専門用語や隠語に戸惑うことがあるかもしれません。
「ヤマ」「バッシング」など、意味が分からないと不安になることもあるでしょう。
しかし、これらの用語は、お客様への配慮や円滑な連携、安全の確保といった、業務に不可欠な目的を持って使われています。
この記事では、飲食業界の基本用語をシーン別に解説するとともに、将来のキャリアアップに繋がる経営・衛生用語までを網羅的に紹介します。
- 飲食業界で専門用語や隠語が使われる理由
- ホール・キッチンで使われる現場の基本用語
- 店長や独立に必要な経営・衛生管理用語
1.飲食業界で専門用語(隠語)が使われる3つの理由
なぜ飲食業界では多くの専門用語が使われるのでしょうか。それには明確な理由があります。
ここでは、主な理由を3つ紹介します。
1)お客様への配慮と不快感の回避
最大の理由は、お客様への配慮です。
例えば、休憩を「4番(トイレ)」、ピーク時間を過ぎた落ち着いた時間を「アイドルタイム」と表現することがあります。
これは、食事中の雰囲気を損ねる可能性のある直接的な言葉(トイレ、暇など)を避け、お客様に不快感を与えないための工夫です。
2)スタッフ間の効率的な情報共有

飲食店、特に忙しいピークタイムの厨房やホールは、まさに迅速さが求められます。
限られた時間の中で正確に情報を伝達するため、「オーダー(注文)」「デシャップ(料理の最終確認・提供指示)」といった用語で、迅速なコミュニケーションを図ります。
3)チームの一体感とプロ意識の醸成
共通の言葉を使うことは、チームとしての一体感を生み出します。
専門用語を正しく理解し、使いこなすことは、自身がそのチームの一員であるという自覚と、専門職としての意識を高めることにも繋がります。
2.【ホール編】接客で必須の基本用語
接客で必須の基本用語
お客様対応
に関する用語
状況・状態
を表す用語
ホールスタッフは「店舗の顔」として、お客様に最も近い場所でサービスを提供します。そのため、現場で使われる専門用語を理解していることは、業務を円滑に進めるうえで欠かせません。
飲食店では略語や独自の呼び方も多く、知らないままではスムーズな連携が難しくなることも。ここでは、初めての方でもすぐに使えるホール業務の基本用語を分かりやすく解説します。
お客様対応に関する用語(例:バッシング、シルバー、トレンチ)
バッシング: お客様が帰られた後のテーブルを片付けること。「バッシング作業」などと使われます。
シルバー: ナイフ、フォーク、スプーンなどの食器類全般を指します。
トレンチ: 料理や飲み物を運ぶために使う、丸型や四角型のお盆のことです。
状況・状態を表す用語(例:アイドルタイム、ヤマ、カワ)
アイドルタイム: お客様の入りが少なく、比較的落ち着いている時間帯。ランチとディナーの間などに発生しやすいです。
ヤマ: 品切れ、売り切れのこと。「本日、ランチAはヤマです」のように使います。
カワ: ヤマの対義語で、本日のおすすめ料理やドリンクのこと。「今日のカワはエビフライでいこう」などと使われます。
3.【キッチン編】調理場で必須の基本用語
キッチンは店舗の品質とスピードを支える重要なポジションです。
限られたスペースで正確かつ効率的に動くためには、調理場ならではの専門用語を理解しておく必要があります。
食材管理や仕込み、ホールとの連携など、キッチン内では多様な言葉が飛び交います。まずは基本用語を押さえて、スムーズに動ける土台を整えましょう。
調理・仕込みに関する用語(例:ポーション、アニキ・オトウト、ストック)
ポーション: 一人前の分量。料理の品質を均一に保つために、あらかじめ決められた分量を指します。
アニキ・オトウト: 先に仕込んだもの(アニキ)、後から仕込んだもの(オトウト)。食材の鮮度管理(先入先出)のために使われます。
ストック: 在庫、または在庫を補充すること。「ストックを確認する」のように使います。
厨房内の連携に関する用語(例:デシャップ、オーダー、パントリー)
デシャップ: 出来上がった料理をホールに渡す前の最終確認場所、またはその担当者を指します。料理の盛り付けや温度をチェックする重要な役割です。
オーダー: お客様からの注文。キッチンではこのオーダーに基づき調理します。
パントリー: 飲み物やデザートの準備、食器の管理などを行う場所。店舗の規模によって役割は異なります。
4.【店舗運営・経営編】キャリアアップに必要な計数用語

店長や独立を視野に入れる場合、接客や調理のスキルだけではなく、数字で店舗を管理する力が必要です。
飲食店では、売上やコストなどの指標を把握することで、利益を安定して生み出す運営が可能になります。
ここでは、経営判断に欠かせない基本的な計数用語を解説し、キャリアアップに向けた知識の土台づくりをサポートします。
売上・コスト管理の用語(例:FLコスト、原価率、人件費率)
FLコスト: 食材費(Food)と人件費(Labor)を合わせたもの。
原価率: 売上に対する食材費の割合。
人件費率: 売上に対する人件費の割合。
店舗運営の指標となる用語(例:客単価、回転率、QSC)
客単価: お客様一人当たりの平均利用金額。(売上 ÷ 客数)で計算されます。
回転率: 客席が一定期間(例:1日)に何回利用されたかを示す指標。(客数 ÷ 客席数)で計算されます。
QSC: 飲食店の評価基準となる3要素。Quality(品質)、Service(サービス)、Cleanliness(清潔さ)の頭文字を取ったものです。
5.【安全・衛生管理編】お客様とスタッフを守る重要用語

飲食店では「美味しさ」と同じくらい、食の安全を守ることが重要です。衛生管理が徹底されていないと、お客様の健康被害や店舗の信用失墜につながります。
現場では安全確保のための専門用語が多く使われており、正しく理解することが欠かせません。
ここでは、日々の業務で必須となる安全・衛生管理の基本用語を紹介します。
日々の業務で必須の用語(例:先入先出法、5S)
先入先出法(さきいれさきだしほう)
在庫管理の基本。先に仕入れた食材から順に使っていくことで、食材の鮮度を保ち、廃棄ロスを防ぎます。「アニキ・オトウト」もこの原則に基づいています。
5S
衛生的な職場環境を維持するための活動。
「整理」「整頓」「清掃」「清潔」「躾(しつけ)」の頭文字を取ったものです。
法律で定められた用語(例:HACCP(ハサップ)、食品衛生責任者)
HACCP(ハサップ)
食品衛生法の改正により、2021年6月から全ての食品等事業者に、HACCPに沿った衛生管理の実施が原則として義務化されました。
食品の製造工程全体を通じて危害要因(菌など)を分析し、特に重要な管理点を定めて監視・記録するシステムを指します。
食品衛生責任者
食品衛生法に基づき、各店舗に1名以上設置が義務付けられている資格者です。講習を受けることで取得でき、店舗の衛生管理全般を担います。
7.【番外編】訪日客・外国人スタッフ向け基本フレーズ

近年、飲食業界では訪日外国人客(インバウンド)の増加や、外国人スタッフの活躍が目覚ましくなっています。
現場でスムーズなコミュニケーションをとるために、最低限覚えておきたい基本フレーズを紹介します。
1)外国人のお客様向け(接客英語)
流暢な英語を話す必要はありません。単語とジェスチャーを交えながら、笑顔で対応することが最も重要です。
| シーン | 日本語の意味 | 英語フレーズ |
|---|---|---|
| 入店時 | 何名様ですか? | How many people?(ハウ メニー ピーポー?) |
| 案内 | こちらへどうぞ。 | This way, please.(ディス ウェイ プリーズ) |
| 注文 | ご注文はお決まりですか? | Are you ready to order?(アー ユー レディ トゥ オーダー?) |
| 確認 | アレルギーはありますか? | Do you have any allergies?(ドゥ ユー ハブ エニー アラジーズ?) |
| 会計 | お会計はテーブルでお願いします。 | Table check, please.(テーブル チェック プリーズ) |
2)外国人スタッフ向け(やさしい日本語)
外国人スタッフに業務を教える際は、「尊敬語」や「謙譲語」を避け、短く分かりやすい「やさしい日本語」を使うのがコツです。
指示は短く切る
×「このお皿を洗っておいてほしいのと、そのあとテーブルを拭いてください」
〇「このお皿を洗ってください」「そのあと、テーブルを拭いてください」
あいまいな表現を避ける
×「これ、適当に切っておいて」
〇「これを、3センチに切ってください」
難しい言葉を言い換える
×「至急、バッシングをお願いします」
〇「急いで、お皿を下げてください」
文化や言語の壁を超えて、お互いが働きやすい環境を作ることも、これからの飲食店には欠かせない視点です。
6.用語の理解はプロフェッショナルへの第一歩
飲食店の現場で専門用語を理解しているかどうかは、業務品質とコミュニケーション効率に直結します。
ホール・キッチン・経営・衛生管理まで、幅広い用語を正しく使いこなすことは、即戦力として評価され、将来的なキャリアアップにもつながります。
日々の業務で積極的に活用し、専門職としての基盤を強化していくことが重要です。