「飲食業は誰でもできる」のウソホント｜未経験からのキャリア術

飲食業は「誰でもできる」と聞き、未経験でも挑戦できると期待する一方、スキルが身につかず成長が止まってしまう「ぬるま湯」のような状態になるのではないか？と不安を感じる方は少なくありません。

「飲食業は誰でもできる」という言葉は、多くの場合「未経験からでも始めやすい」という意味で使われます。

しかし、その環境を活かして専門性を築けるかは、その後のキャリア戦略次第です。

この記事では、飲食業の始めやすさの理由と、飲食業の適性、キャリアパス、そして「誰でもできる」仕事で終わらせないための戦略を具体的に解説します。

1．飲食業は「誰でもできる」と言われる本当の理由

「飲食業は誰でもできる」という言葉には、業界特有の事情と、そこから生じる誤解の両方が含まれています。

理由1：未経験者歓迎の求人が多い（売り手市場の背景）

飲食業界は、現在深刻な人手不足を背景に、求職者にとって有利な「売り手市場」となっています。

多くの企業が経験よりもポテンシャルや人柄を重視しており、学歴や職歴を問わず「未経験者歓迎」の求人が多いのが特徴です。

この「間口の広さ」こそが、「誰でもできる（＝始めやすい）」と言われる最大の理由です。

理由2：「誰でもできる」の裏にある「ぬるま湯」のリスク

一方で、この言葉は「専門的なスキルが身につかず、キャリアが停滞する（ぬるま湯）のではないか」という不安や誤解を生む原因にもなっています。

確かに、基本的な接客や簡単な調理補助であれば、すぐに覚えられるかもしれません。

しかし、それはあくまで入り口です。飲食業は、店舗運営、人材管理、原価計算、マーケティング、高度な調理技術など、非常に奥深い専門知識が求められる仕事です。

2．【自己診断】飲食業の仕事、向いている人の特徴

「始めやすい」とはいえ、飲食業で活躍し、キャリアを築いていくためには一定の適性が求められます。

視点1：キャリア（体力やコミュニケーション能力）

飲食業は、立ち仕事や重い食材の運搬など、体力が求められる場面が多い仕事です。

また、お客様だけでなく、立場の異なるスタッフ（ホール、キッチン、アルバイトなど）と円滑に連携する必要があるため、高いコミュニケーション能力が不可欠です。

視点2：心理（変化を楽しめる、人を喜ばせるのが好き）

飲食店では、天候や時間帯によって客層や忙しさが目まぐるしく変わります。

そうした変化に柔軟に対応し、楽しむ姿勢が重要です。

そして何より、「自分のサービスや料理で、お客様に喜んでもらいたい」という純粋な想いが、この仕事の大きなやりがいであり、成長の原動力となります。

3．飲食業の主な仕事内容とキャリアパス

未経験からスタートしても、飲食業には多様なキャリアパスが用意されています。

主な仕事内容：ホール・キッチンスタッフの仕事

多くの人がまず経験するのが、ホールスタッフ（接客） やキッチンスタッフ（調理補助） です。

ホールでは接客マナーやオーダー対応を、キッチンでは食材の仕込みや簡単な調理、衛生管理 などを学びます。

ここが全てのキャリアの土台となります。

キャリアパス：店長・マネージャーへの道

現場で経験を積むと、店長やマネージャーへの道が開かれます。

この役職では、接客や調理だけでなく、スタッフの採用・育成、シフト管理、売上や原価の管理といった「店舗経営」のスキルが求められます。

キャリアパス：本部スタッフや独立開業という選択肢

キャリアは店舗運営だけではありません。

店長やエリアマネージャーとして実績を積んだ後、複数店舗を統括するスーパーバイザー（SV）や、商品開発、マーケティング、人事といった本社機能（本部スタッフ）へ進む道もあります。

また、必要な経験と知識を蓄積し、「自分のお店を持つ」という独立開業 も、飲食業ならではの大きな目標の一つです。

4．「誰でもできる」仕事で終わらせないためのキャリア戦略

「始めやすさ」をメリットに変え、市場価値の高い人材になるためには、日々の業務をこなすだけでなく、主体的なキャリア戦略が必要です。

専門性を高める（調理師免許やソムリエ資格など）

飲食業には、キャリアアップに直結する専門資格があります。

例えば、調理の専門性を示す「調理師免許」 や、ワインの専門家である「ソムリエ」 などです。

これらは取得に実務経験が必要ですが、専門性を公的に証明する強力な武器となり、転職や昇進、独立時に大きなアドバンテージとなります。

どこでも通用する「ポータブルスキル」を意識する

飲食業は、他の業界でも通用する「ポータブルスキル」 を磨く絶好の場です。

例えば、お客様の要望を先読みする「対人スキル」、忙しい状況で効率よく業務を回す「課題解決能力」、スタッフをまとめる「マネジメント能力」などです。

5．飲食業の経験が活かせる次のキャリア（出口戦略）

飲食業で培ったポータブルスキルは、万が一、他の業界へ転職（キャリアチェンジ） する際にも高く評価されます。

営業職や販売・サービス業

高い「対人スキル」や「課題解決能力」は、顧客のニーズを汲み取ることが重要な営業職や、他の販売・サービス業で即戦力として活かせます。

事務職やバックオフィス

店長経験などで培った「売上管理」や「人材管理」のスキルは、企業のバックオフィス（総務、人事、経理など）でも応用が可能です。

6．働く前に確認したい労働環境の知識

安心してキャリアをスタートするために、最低限の労働法の知識も持っておきましょう。

求人票で見るべきポイント（固定残業代など）

求人票を見る際は、給与額面だけでなく「固定残業代（みなし残業代）」の有無を確認してください。

厚生労働省より事業主へ、「固定残業代」の明示をしっかり行うよう呼びかけをしています。

「固定残業代」が含まれている場合、何時間分の残業代が基本給に含まれているのかを把握することが、入社後のミスマッチを防ぐために重要です。

参考｜厚生労働省｜青少年の雇用の促進等に関する法律（若者雇用促進法）

安心して働くためのセーフティネット（雇用保険など）

正社員や、週の所定労働時間が20時間以上など、一定の要件を満たすアルバイトであれば、「雇用保険」に加入します。

これは、万が一失業した際に「失業手当（基本手当）」 を受け取るためや、キャリアアップのための「教育訓練給付制度」 を利用するために必要な、重要なセーフティネットです。

参考｜厚生労働省：雇用保険制度

7．飲食業に関するよくある質問（FAQ）

参考｜厚生労働省：賃金構造基本統計調査（令和6年）・就労条件総合調査（令和6年）

8．飲食業は誰でも始められるが、その先に進むために

飲食業は「誰でもできる（＝始めやすい）」というのは、未経験者にとって大きなチャンスです。

しかし、それは決して「誰でも成功できる」という意味ではありません。

飲食業という環境を活かし、「調理師免許」などの「専門性」と、他業種への転職にも活かせる「ポータブルスキル」を意識的に磨き上げるか。

その主体的なキャリア戦略こそが、「誰でもできる」仕事で終わらせないための最も重要な鍵となります。