長時間労働や給与水準への不満から、飲食業界からの転職を検討する求職者は後を絶ちません。
しかし、面接の場で「不満」をそのまま退職理由として伝えてしまえば、採用担当者に懸念を抱かれるリスクがあります。
厚生労働省の調査によれば、宿泊業・飲食サービス業の離職率は全産業中で最も高い26.8%を記録しており、これは業界特有の構造的な課題といえます。
重要なのは、これらの客観的な事実を踏まえつつ、個人の「本音」を、企業の成長に貢献する「ポジティブな志望動機」へと論理的に変換することです。
本記事では、2025年の労働市場動向を踏まえ、採用担当者に評価される志望動機の構築手法と、具体的な言い換え例文を解説します。
- 飲食業界のリアルな転職理由(本音)ランキング
- 面接官が「退職理由」と「志望動機」を聞く本当の理由
- 飲食から他業種へ転職する際のポイント
1.データで見る飲食業界の退職理由と構造的背景
転職活動を始めるにあたり、まずは現状を客観的に把握することが重要です。自身が抱える不満が、個人的な事情によるものか、業界構造に起因するものかを区別することで、面接での伝え方は大きく変わります。
退職理由の客観的データ
民間調査データおよび厚生労働省の統計によると、飲食業界からの主な転職理由は以下の要素に集約されます。
飲食の転職理由(本音)ランキング
転職時に抱えている悩みは決して特別なものではありません。
上位記事のアンケート調査や公的な統計を見ても、飲食業界の転職理由(本音)は共通しています。
参考|厚生労働省:令和5年 労働安全衛生調査(実態調査)・令和5年若年者雇用実態調査の概況・PR TIMES:飲食業界の転職理由、20代が「技術力向上のため」30代が「年収アップのため」-求人@飲食店.COM
離職率26.8%が示す意味
飲食サービス業の離職率26.8%という数値は、他産業(製造業9.7%など)と比較しても突出して高い水準です。また、パートタイム労働者を含めた流動性で見ると離職率は78.1%に達するというデータも存在します。
これは、個人の忍耐不足というよりも、労働集約型ビジネスである飲食業界全体の構造的な課題であると捉えられます。
したがって、転職自体を「逃げ」と捉える必要はなく、より良い環境を求める合理的なキャリア選択と位置づけることが可能です。
2.採用担当者の視点|退職理由を「志望動機」に変える鉄則
採用面接において、退職理由と志望動機はセットで評価されます。採用担当者が特に注目しているのは、「他責にしていないか」と「未来志向であるか」の2点です。
鉄則1:「不満」を「実現したい未来」へ変換する
「残業が多いから辞める(不満)」ではなく、「限られた時間で生産性高く働き、自己研鑽の時間も確保したい(未来)」と言い換えることで、ネガティブな要素はポジティブな意欲へと変化します。
鉄則2:一貫性を持たせる
退職理由(過去)と志望動機(未来)には論理的な一貫性が不可欠です。
「前職では〇〇が実現できなかった(退職理由)。だからこそ、〇〇を重視する御社を志望した(志望動機)」というロジックを構築することで、説得力は飛躍的に向上します。
3.【ケース別】本音を武器に変える言い換え例文集
多くの求職者が抱える代表的な「本音」を、面接で評価される表現に変換する具体的な例文を紹介します。
1. 転職理由(本音):「給与・待遇への不満」
給与・評価制度への不満
「給料が安く、どれだけ頑張っても給与が上がらないため生活が苦しい。」
↓
正当な評価への渇望
「前職では店舗の売上改善に尽力いたしましたが、年功序列の要素が強く、成果がダイレクトに評価・報酬へ反映される仕組みが整っていませんでした。今後は、実力主義を掲げる貴社において、明確な目標数値に向かって成果を上げ、その貢献に見合った評価をいただける環境で挑戦したいと考え、転職を決意いたしました。」
「給料が安かった」「残業代が出なかった」という本音は、「成果を正当に評価してほしい」という意欲の表れです。
2. 転職理由(本音):「労働時間・休日への不満」
長時間労働・休日不足
「毎日終電帰りで休みもなく、体力的にも精神的にも限界だ。」
↓
生産性の追求
「前職では長時間労働が常態化しており、業務効率の改善が困難な状況でした。私は、限られた時間内で最大の成果を出すことこそがプロフェッショナルの仕事であると考えております。DX化や業務効率化を推進されている貴社であれば、メリハリのある働き方を通じて長期的に高いパフォーマンスを発揮し続けられると考え、志望いたしました。」
「休みが取れない」「長時間労働がきつい」という本音は、「長期的に安定して働きたい」「効率よく働きたい」という前向きな姿勢として伝えられます。
3. 本音:「人間関係への不満」
人間関係・職場環境の悪化
「店長と合わない、スタッフ間の仲が悪くギスギスしていて働きにくい。」
↓
組織貢献への意欲
「前職では個人の力量に依存する部分が大きく、チームとしての連携が取りづらい課題がありました。私は、組織全体で共通の目標を持ち、互いに協力し合うことでより大きな成果を生み出したいと考えております。チームワークを最重要視される貴社の理念に共感し、その一員として貢献したいと強く思いました。」
「上司と合わなかった」「職場の雰囲気が悪かった」という本音は、「チームワークを重視したい」という協調性としてアピールできます。
4. 本音:「体力的きつさ・将来性の不安」
体力的きつさ・将来性の不安
「年齢を重ね、立ち仕事の多い現場作業が体力的にきつくなりました。」
↓
経験を活かす意欲
「飲食の現場で〇年間、接客とオペレーションを経験してきました。今後は、この現場経験を活かし、SV(スーパーバイザー)や店舗開発、本部職など、より広い視点で飲食ビジネスの成長に貢献できるキャリアを歩みたいと考え、転職を決意しました。」
「立ち仕事が体力的にきつい」という本音は、「別のスキルで貢献したい」というキャリアチェンジの意欲になります。
4.【職種別】飲食経験者の市場価値とキャリアパス

「飲食の経験は他では役に立たない」と考える必要はありません。店舗運営で培った「ポータブルスキル(持ち運び可能な能力)」は、異業種でも高く評価されます。
店長・マネージャーから「事務・管理部門」へ
店長経験者が持つ「人・モノ・金」の管理能力は、企業の管理部門において即戦力となります。
- アピールすべきスキル
PL(損益)管理能力、労務管理、人材育成、目標達成能力。 - 志望動機例
「店長として、月商〇〇万円の店舗経営と〇〇名のスタッフ管理を行ってまいりました。この『小規模経営』の経験を通じて培った数値管理能力と調整力を、今後は貴社の管理部門において、組織全体の業務最適化や利益最大化に活かしたいと考えております。」
ホールスタッフから「営業職」へ
多様な顧客に対応してきたコミュニケーション能力は、営業職における最大の武器です。
- アピールすべきスキル
顧客折衝力、課題察知力、クレーム対応力。 - 志望動機例
「日々数百名のお客様と接する中で、潜在的なニーズを察知し、期待を超えるサービスを提供することにやりがいを感じてきました。この『顧客志向』と『対人対応力』を活かし、貴社のソリューション営業として、クライアントの課題解決に貢献したいと考えております。」
未経験者向け(業界内での職種転換)
2025年の飲食業界は深刻な人手不足により、未経験者の採用を積極的に行っています。
異業種で培った「仕事へのスタンス」や「効率化の視点」は、飲食の現場においても差別化要因となります。
- アピールすべきスキル
継続学習能力、異業種の知見(例:製造業の工程管理、ITの効率化視点)、食への情熱。 - 志望動機例
「前職の事務職では、正確性と業務効率化を常に意識して業務に取り組んでまいりました。しかし、以前より『食』を通じて人々に直接喜びを提供する仕事に就きたいという思いが強く、未経験からでも調理技術を体系的に学べる貴社の研修制度に魅力を感じました。前職で培った『段取り力』を活かし、早期に技術を習得して店舗運営に貢献したいと考えております。」
5.2025年の転職市場動向:売り手市場と「ホワイト飲食」

2025年に向けて、労働市場は大きな変化の只中にあります。
第一に、深刻な人手不足を背景に、求職者が企業を選べる「売り手市場」が継続しています。異業種からの未経験採用も活発化しており、キャリアチェンジの好機といえます。
第二に、飲食業界内部でも「二極化」が進んでいます。人材確保のために、完全週休2日制の導入や給与水準の引き上げ、DXによる業務負担軽減に取り組む「ホワイト飲食企業」が増加しています。
「業界を去る」だけでなく、「労働環境の整った成長企業へ移る」という選択肢も視野に入れることで、キャリアの可能性はさらに広がります。
6.飲食の転職理由は「本音」を「ポジティブ」に変換しよう
飲食業界の転職理由は、「給与」「労働時間」「人間関係」といったネガティブな本音であることが大半です。
大切なのは、その本音(悩み)を「どう改善したくて転職するのか」というポジティブな理由に変換することです。
「転職理由」と「志望動機」に一貫性を持たせ、「この人なら活躍してくれそうだ」と面接官に納得してもらえる準備をしっかり行うことが重要です。