キャリアアップ
体力的な限界を感じ、「もう辞めたい」と思う一方で、「自分には飲食の経験しかないから、他では通用しないのではないか」という不安から、一歩踏み出せずにいるケースも多く見られます。
しかし、客観的なデータを見ると、現在の飲食業界は有効求人倍率が2.4倍を超える「超売り手市場」です。
つまり、働く側が「会社を選ぶ」ことができる状況にあります。
本記事では、「なんとなく」で転職先を選び、後悔することを防ぐために、自分の身を守る正しい知識と、キャリアを切り拓くための戦略をお伝えします。
- 飲食業界の離職率や求人倍率などの客観的データ
- 同業種・異業種それぞれの転職ルートと成功のポイント
- 労働法規の視点に基づいた「ホワイト企業」の見分け方
1.なぜ飲食店の正社員は「きつい」と言われるのか?業界の構造的課題
業界の構造的課題
高すぎる離職率と入職率
「中抜けシフト」の弊害
固定残業代の落とし穴
「きつい」と感じる背景には、個人の努力不足ではなく、業界特有の構造的な課題が存在します。
まずは現状を客観的なデータで把握しましょう。
【データ検証】全産業平均を大きく上回る離職率と入職率の実態
厚生労働省の調査によると、宿泊業・飲食サービス業の離職率は26.8%であり、全産業平均の約1.8倍に達しています。
これは、多くの人が労働環境に課題を感じていることを示唆しています。
一方で、入職率(新しく入る人の割合)も31.3%と非常に高い数値を示しています。
これは、業界全体の人材流動性が高く、「転職すること自体は珍しいことではない」ということを意味します。

現在の環境が合わないと感じた場合、環境を変える選択は決してネガティブなことではありません。
参考|厚生労働省:雇用動向調査
拘束時間を長期化させる「中抜けシフト」の弊害とは
飲食店の労働時間が長くなる最大の要因の一つに「中抜けシフト(アイドルタイムの休憩)」が挙げられます。
例えば、ランチ営業とディナー営業の間に数時間の休憩を挟むことで、実働時間は8時間であっても、会社に拘束される時間が12時間を超えるケースが常態化しています。

労働基準法上、休憩時間は労働時間に含まれませんが、拘束時間が長いことでプライベートな時間が削られ、生活の質(QOL)が低下しやすいのが実情です。
「名ばかり店長」問題と固定残業代の落とし穴
店長になった途端に残業代が出なくなる、いわゆる「名ばかり管理職」の問題も依然として存在します。
労働基準法上の「管理監督者」として認められるには、経営者と一体的な立場にあることや、自身の勤務時間を決定できる権限があることなど、厳しい条件が必要です。
多くの店長職はこの条件を満たしておらず、法的には残業代を支払う義務があるケースが大半です。
また、求人票で「固定残業代(みなし残業代)」が含まれている場合も注意が必要です。

基本給を低く設定し、多額の固定残業代で月給をカサ増しして見せている場合があるため、内訳をしっかりと確認することが重要です。
2.飲食業界からの転職|進むべき「2つの道」
進むべき「2つの道」
キャリアアップ
キャリアチェンジ
転職を考える際、大きく分けて「同業種でより良い環境を目指す」か、「全く異なる業界へ挑戦する」かの2つのルートがあります。
ルートA:同業種でのキャリアアップ(年収・環境改善)
「料理や接客は好きだが、今の会社の労働環境が合わない」という場合は、同業種内での転職が推奨されます。
特に以下の職種や業態は、年収アップや環境改善が見込めます。
専門料理店(寿司職人、ソムリエなど)
高度な専門技術や資格(調理師免許、ソムリエ認定など)があれば、年収400万円〜500万円以上を目指すことも可能です。
大手チェーンの本部職(SV、商品開発など)
現場経験を活かしつつ、土日休みや安定した勤務時間を確保しやすい傾向にあります。
業界全体が人手不足であるため、経験者は非常に優遇されます。
特に寿司職人などの専門職は、インバウンド需要の増加もあり、年収450万円以上を狙える職種として注目されています。

「前の店ではこうだった」という実績を数字で伝えることができれば、好条件を引き出しやすい状況です。
ルートB:異業種へのキャリアチェンジ(脱飲食)
「土日休みが欲しい」「立ち仕事がきつくなってきた」という場合は、異業種への転職が選択肢に入ります。
飲食経験者が採用されやすい職種には以下のようなものがあります。
法人営業(BtoB)
顧客のニーズを汲み取る力は、営業職に直結します。
特に食品メーカーや酒類商社など、飲食業界を顧客とする営業であれば、現場の気持ちがわかることが大きな武器になります。
IT業界(エンジニア・セールス)
成長産業であり人手不足のため、未経験採用に積極的です。
論理的思考力や学習意欲があれば、挑戦の門戸は開かれています。
介護・福祉業界
ホスピタリティ精神が活かせる分野です。
人と接することが好きで、社会貢献性を重視する方に適しています。
飲食経験は宝の山!「ポータブルスキル」への変換術
異業種へ転職する際、「自分には調理と接客しかできない」と考える必要はありません。
飲食店の業務で培ったスキルは、どの業界でも通用する「ポータブルスキル(持ち運び可能なスキル)」に変換してアピールできます。
| 飲食業界での経験 | 異業種で通用するポータブルスキル | 職務経歴書でのアピール例 |
|---|---|---|
| クレーム対応・常連客作り | 対人折衝力・課題解決力 | 理不尽な要求に対しても、相手の感情を汲み取り、代替案を提示して納得させた経験。 |
| ピークタイムの調理・配膳 | マルチタスク処理能力 | 優先順位を瞬時に判断し、複数の業務を同時並行で正確に遂行する能力。 |
| アルバイト教育・シフト管理 | マネジメント力 | 年齢や国籍の異なるスタッフをまとめ、チームとして目標を達成するリーダーシップ。 |
| 原価管理・ロス削減 | 計数感覚・コスト意識 | FLコスト(食材費+人件費)を意識し、廃棄ロスを削減して利益率を改善した実績。 |

このように、「何をしたか(Do)」ではなく「どのような能力を発揮したか(Skill)」に注目して言語化することが、書類選考通過の鍵となります。
3.絶対にブラック企業に入りたくない!ホワイト飲食店の見分け方【保存版】
ホワイト飲食店の見分け方
「転職先もまたブラック企業だった」という事態を避けるために、法務・労務の視点から企業を見極めるポイント解説します。
求人票のここを見ろ!「年間休日110日」と「固定残業代」の真実
求人票を見る際は、以下の項目を必ずチェックしてください。
年間休日数
労働基準法上の最低ラインに近い「105日」未満の場合は注意が必要です。
110日以上、できれば「120日」あれば、カレンダー通りの休みと同等の水準と言えます。
また、「週休2日制(月に1回以上2日の週がある)」と「完全週休2日制(毎週必ず2日休み)」の違いも正しく理解しておきましょう。
給与の内訳
「月給30万円〜」とあっても、その中に「固定残業代(45時間分など)」が含まれていないか確認してください。
基本給が低く設定されている場合、賞与や退職金の算定で不利になることがあります。
厚生労働省認定「ユースエール」「くるみん」マークを探せ
「自称ホワイト企業」に惑わされないためには、国(厚生労働省)の認定マークを確認するのが確実です。
ユースエール認定
若者の採用・育成に積極的で、有給取得率や離職率などの基準を満たした中小企業。
くるみん認定
子育てサポート企業として認定された企業。

これらのマークを取得している企業は、労務管理が適切に行われている可能性が高いと判断できます。
面接・店舗視察でチェックすべき「スタッフの表情」と「清掃状態」
データだけでなく、実際の店舗を客として利用し、自分の目で確かめることも重要です。
スタッフの表情
笑顔が自然か、疲弊していないか、スタッフ間の私語が殺伐としていないかを確認します。
清掃状況
トイレやテーブルの下などが汚れている場合、掃除に回す人手が足りていない、つまり慢性的な人手不足である可能性があります。
4.転職活動を成功させるための具体的な3ステップ
具体的な3ステップ
準備不足のまま飛び出すことは、金銭的な焦りを生み、再び不本意な労働環境を選んでしまう最大のリスク要因となります。
ここでは、キャリアと生活を守りながら、確実に次のステージへ進むための「鉄則」とも言える3つのステップを解説します。
Step 1: 退職理由の言語化とポジティブ変換
面接で退職理由を聞かれた際、「給料が安いから」「休みがないから」といったネガティブな理由をそのまま伝えるのは避けましょう。
事実はそうであっても、以下のようにポジティブな動機に変換して伝えることが大切です。
給料が安い
成果が正当に評価される環境で、より高い目標に挑戦したい
休みがない
メリハリをつけて働き、自己研鑽の時間も確保することで、仕事の質を高めたい
Step 2: 在職中に活動を始める(金銭的リスクの回避)
「もう限界だ」といって衝動的に退職してしまうと、失業保険(雇用保険)の給付制限期間があり、待機期間(7日間)に加え、原則2ヶ月間の給付制限期間があるため、当面の生活費が必要です。

金銭的な焦りは、「どこでもいいから就職しなければ」という判断ミスを招きやすいため、可能な限り在職中に転職活動を行い、内定を得てから辞めるのが鉄則です。
Step 3: プロ(エージェント)に条件交渉と面接調整を丸投げする
現職が忙しく、求人を探す時間がない方こそ、転職エージェントを活用すべきです。
面接日程の調整や、言いにくい年収交渉などを代行してくれます。
フーズラボ (Foods Labo)
実際に店舗を取材しており、現場のリアルな情報を持っています。
若手やホワイト企業志向の方におすすめです。
クックビズ (Cookbiz)
業界最大級の求人数を誇り、スカウト機能もあります。
多くの選択肢から選びたい方に適しています。
リクルートエージェント / doda
異業種への転職を考えているなら、圧倒的な求人数を持つ総合型エージェントの利用が必須です。
5.よくある質問(FAQ)
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調理師免許などの資格は必要ですか?
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必須ではありませんが、持っていると有利です。
調理師免許は、調理の技術だけでなく、食品衛生や栄養の知識を持っていることの公的な証明になります。
また、食品衛生責任者は1日の講習で取得できるため、店舗運営を目指すなら取得しておくとアピールになります。
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辞めたいのに「人がいないからダメだ」と引き止められます。
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法的には、退職の意思表示から2週間が経過すれば雇用契約を終了できます。
会社側の「後任が見つかるまで」といった都合は、法律上は拒否する正当な理由になりません。
もし強い引き止めに遭ったり、退職届を受け取ってもらえない場合は、内容証明郵便で退職届を送る方法もあります。
円満退職が理想ですが、どうしても難しい場合は、退職代行サービスの利用や労働基準監督署への相談も検討してください。
6.飲食からの転職は「逃げ」ではない。戦略的な一歩を踏み出そう
飲食業界での経験は、決して無駄なものではありません。
過酷な環境で培った「体力」「忍耐力」「対人スキル」は、どの業界に行っても高く評価される立派な資産です。
大切なのは、「自分には選択肢がない」と思い込まないことです。
法的な知識という「鎧」を身につけ、ポータブルスキルという「武器」を持てば、ブラック企業を避け、理想のキャリアを選び取ることができます。
まずは転職エージェントに登録し、自身の市場価値を把握することから始めましょう。
小さな行動が、理想のキャリアを実現するための確実な一歩となります。

