飲食店の正社員として働く中で、「このまま働き続けて、将来退職金はもらえるのだろうか?」という不安を感じることはありませんか?
長時間労働や不規則な勤務が常態化しやすい業界だからこそ、老後の資金や退職後の生活に対する不安は切実なものです。
結論から申し上げますと、法律上、退職金の支払いは企業の義務ではありません。
しかし、ご自身の会社の「就業規則」に規定があれば、それは確実な権利となります。
本記事では、労働法規や最新の業界データを基に、飲食業界の退職金事情のリアルな相場や、仮に制度がなかった場合の具体的な対策について、わかりやすく解説します。
- 飲食業界の退職金制度の導入率と、勤続年数ごとのリアルな金額相場
- 金額が少なくても「手取り」が減らない、退職金特有の税金の仕組み
- 会社に退職金制度がない場合に、自分で将来のお金を作る具体的な防衛策
1.【実態】飲食店の正社員に退職金は出るのか?業界データで見る現実
まず、飲食業界全体として、どのくらいの企業が退職金制度を導入しているのか、客観的なデータを見てみましょう。
厳しい現実かもしれませんが、ここを正しく認識することがキャリアプランの第一歩です。
飲食業界の退職金制度導入率は約30~50%
東京都産業労働局や厚生労働省の調査データを見ると、飲食業界の退職金制度導入率は他産業に比べて低い水準にあります。
退職金制度導入率
- 東京都の調査(中小企業中心):飲食店業・宿泊業の導入率は34.7%
- 厚生労働省の調査(全国):宿泊業・飲食サービス業の導入率は49.1%
全産業平均が70%を超えていることと比較すると、飲食業界では「退職金制度がない会社」が決して珍しくないことがわかります。
特に、個人経営の店舗や小規模な法人では、制度そのものが存在しないケースが多く見られます。
なぜ飲食店の退職金は少ないのか?構造的な理由
なぜ、これほどまでに導入率が低いのでしょうか。
経営的な視点から見ると、離職率の高さ・利益構造の厳しさの2つの理由が挙げられます。
離職率の高さ
飲食業界は人材の流動が激しく、入社3年以内に離職する方が多い傾向にあります。
そのため、「長く働いてくれた報奨」としての退職金制度が機能しにくいという背景があります。
利益構造の厳しさ
食材費や人件費の高騰により利益率が低くなりがちで、将来のために多額の退職金原資を積み立てる余裕がない企業が多いのが実情です。
2.【相場】もし貰えるならいくら?勤続年数別の金額シミュレーション
では、運良く退職金制度がある会社に勤めていた場合、いくらくらい貰えるのでしょうか。
「正社員として定年まで働けば安心」と思い込む前に、実際の相場を確認しておきましょう。
勤続10年・20年・30年の平均支給額モデル
東京都のデータを基に、飲食・宿泊業におけるモデル退職金をシミュレーションしました。(※高卒・会社都合ではなく自己都合退職の場合の目安です)
| 勤続年数 | 飲食・宿泊業(目安) | 全産業平均(参考) |
|---|---|---|
| 勤続10年 | 約49万円 | 約110万円 |
| 勤続20年 | 約122万円 | 約380万円 |
| 勤続30年 | 約308万円 | 約650万円 |
このように、他産業と比較すると半分以下の水準になるケースも少なくありません。
「退職金だけで老後は安泰」と考えるのは、飲食業界においてはリスクが高いと言わざるを得ません。
参考|東京都 産業労働局:中小企業の賃金・退職金事情(令和4年版)
注意が必要な「受給要件」と「3年の壁」
金額以前の問題として、「貰える条件」を満たしているかどうかも重要です。
多くの企業では、退職金規定に「最低勤続年数」を設けています。
最も一般的なのが「勤続3年以上」という条件です。

もし、制度がある会社に入社しても、3年未満で退職してしまうと、支給額は「ゼロ」になる可能性が高いのです。ご自身の勤続年数が要件を満たしているか、一度確認してみることをお勧めします。
3.【朗報】飲食店の退職金は「手取り額」が減らない?税金の仕組み
ここまで厳しいお話が続きましたが、一つだけ「朗報」があります。
それは、飲食店の退職金相場であれば、税金がほとんど引かれず、額面金額がそのまま「手取り」になる可能性が高いということです。
退職金を優遇する「退職所得控除」とは
退職金は、長年の労働に対する報いであり、老後の生活資金という大切な性質を持っています。
そのため、税制上、非常に優遇されています。

これを「退職所得控除」と言い、勤続年数に応じて「ここまでは税金をかけませんよ」という非課税枠が設けられています。
具体的な手取り額の計算例
例えば、勤続10年で退職し、40万円の退職金が出るとします。
手取り額の計算例
- 控除額の計算:40万円 × 10年 = 400万円
- 判定:退職金(40万円)≦ 控除額(400万円)
この場合、退職金全額が控除枠(400万円)の中に収まるため、所得税や住民税は一切かかりません。
大企業の高額な退職金では多額の税金が引かれますが、飲食業界の一般的な水準であれば、提示された金額がそのまま口座に振り込まれると考えて良いでしょう。
4.【法律】「退職金なし」は違法ではない?確認すべき就業規則
「うちの店、退職金がないなんて違法じゃないのか?」
そう思う方もいらっしゃるかもしれませんが、法的な観点から解説します。
労働基準法における退職金の位置づけ
結論から言うと、退職金制度がないこと自体は違法ではありません。
労働基準法において、退職金の支払いは義務付けられていないからです。
ただし、例外があります。
それは、会社の「就業規則」や「賃金規程」に退職金に関する定めがある場合です。
一度ルールとして明記された以上、退職金は「賃金」の一部とみなされ、会社には支払い義務が生じます。

経営が苦しいからといって、一方的に支払わないことは法律違反(賃金未払い)となります。
就業規則がない・見せてもらえない場合の対処法
「就業規則なんて見たことない」という方も多いかもしれません。
常時10人以上の従業員がいる職場では、就業規則を作成し、従業員に周知させる義務があります。
もし、ご自身の退職金の有無がわからない場合は、以下のステップで確認しましょう。
1.雇用契約書(労働条件通知書)を確認する
入社時に交わした書類に「退職金:有・無」の記載欄があります。
2.店長や総務担当者に尋ねる
「将来のライフプランのために確認したい」と前向きな理由で聞けば角が立ちません。
5.【戦略】退職金がない・少ない場合の「自己防衛策」
「自己防衛策」
会社の制度に期待できないとわかった場合、嘆いているだけでは将来は変わりません。
「ないなら、自分で作る」あるいは「ある場所へ行く」という発想の転換が必要です。
ここからは、具体的な3つの自己防衛策をご提案します。
選択肢1:退職金制度や福利厚生が充実した企業へ転職する
飲食業界で働き続けたいけれど、将来が不安という人は、制度が整っている企業へ移るのが最も確実な方法です。
飲食業界の中でも、以下のような企業は退職金制度(確定拠出年金など)が整備されている傾向にあります。
制度が整っている企業の例
- 大手外食チェーン:上場企業グループなどは福利厚生が手厚いケースが多いです。
- 給食委託会社(コントラクトフード):病院や学校の給食受託は景気に左右されにくく、待遇が安定しています。
- ホテル・ブライダル業界:母体が大きく、人事制度が整っていることが多いです。
転職活動の際は、求人票の「福利厚生」欄を必ずチェックし、面接の逆質問などで制度の詳細を確認するようにしましょう。
選択肢2:iDeCo(個人型確定拠出年金)で「自分年金」を作る
「今の店が好きだから辞めたくない」という方は、国の制度を使って自分で退職金を作りましょう。
非常に有効なツールがiDeCo(イデコ)です。
毎月一定額(5,000円~)を積み立てて運用する制度ですが、最大のメリットは「節税効果」です。
積み立てた掛金は「全額」が所得控除になるため、毎年の所得税・住民税が安くなります。
つまり、「今の税金を減らしながら、将来の退職金を作る」ことができるのです。

これは、退職金がない会社に勤める方にとって、利用しない手はないほど有利な制度です。
選択肢3:NISAを活用した長期的な資産形成
iDeCoは60歳まで引き出せないという制限がありますが、もっと柔軟に備えたい場合はNISA(少額投資非課税制度)がおすすめです。
投資の利益にかかる税金がゼロになる制度で、いつでも現金化できるため、老後資金だけでなく、急な出費やライフイベントの資金作りにも適しています。

「投資なんて怖い」と思われるかもしれませんが、国が推奨する長期・積立・分散投資であれば、リスクを抑えながら銀行預金以上のリターンを目指すことが可能です。
6.知識を武器に、自分らしいキャリアを守ろう
飲食店の正社員にとって、退職金の問題は避けて通れない課題です。
しかし、「相場が低い」「制度がない」という事実を知ることは、絶望ではなく、「早めに対策を打てる」という好機でもあります。
- まずは就業規則を確認し、自分の会社のルールを把握する。
- 退職金が見込めないなら、iDeCoやNISAで「自分年金」作りを始める。
- より安定した環境を求めて、制度のある企業への転職を検討する。
法律やお金の知識は、自身を守る「武器」になります。
今の仕事にやりがいを感じているならなおさら、お金の不安を解消して、長く安心して働ける環境を自らの手で整えていきましょう。

