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飲食店長スキルを磨く|プレイヤーから経営者への転換

給与水準は上昇傾向にあるものの、慢性的な人手不足や多様化する顧客ニーズへの対応など、飲食店長を取り巻く環境は年々厳しさを増しています。

「現場を回すだけで精一杯」「自分の将来が見えない」といった悩みを抱えるケースも少なくありません。

しかし、最近の飲食業界においては、店長の役割定義そのものが大きく変化しています。

もはや「誰よりも早く動けるプレイヤー」であることだけでは評価されず、店舗という組織を安定させ、利益を生み出す「経営的視点」が不可欠となっています。

本記事では、現代の飲食店長が身につけるべき「7つの必須スキル」と、それを活かしたキャリアアップ戦略について具体的に解説します。

この記事を読んでわかること
  • 2025年の店長に求められる「プレイヤー」から「マネージャー」への構造的変化
  • 店舗を黒字化し組織を守るための「数値・労務・DX・リテンション」など7つの必須スキル
  • 店長経験を活かして年収アップやキャリアチェンジを実現するための具体的戦略

1.飲食店長の役割が変わった?プレイヤーからマネージャーへの意識改革

飲食店における「店長」という職位は、店舗の最高責任者として極めて広範な業務を担います。しかし、多くの現場において、その役割認識と実態の間に大きな乖離が生じています。

まずは、現代の店長に求められる役割の本質的な変化について確認します。

【実態】なぜ「仕事ができる人」ほど店長業務に苦戦するのか

vs

オペレーション能力

個人の力

作業の速さや正確さ、接客の好感度など、個人のパフォーマンスに依存するスキル。

マネジメント能力

組織の力

他者を動かし、チーム全体としてより大きな成果を創出するスキル。

優秀なホールスタッフや調理スタッフが店長に昇格した後、店舗運営に行き詰まってしまうケースは後を絶ちません。

これは、ビジネスの世界で「ピーターの法則」と呼ばれる現象の一つであり、現場での「オペレーション能力」と、店長として求められる「マネジメント能力」が、全く異なるスキル体系であることに起因します。

ピーターの法則とは?

「組織の階層社会では、人は自分の能力が通用しない地位まで昇進してしまう」という法則です。現場で優秀だった人が昇進後に必要なスキルが異なるため、結果的に無能化してしまう現象を指します。

店長になった途端に業務量が激増し、「自分がやった方が早い」とプレイヤー業務に没頭してしまうと、シフト作成や数値管理といった本来の管理者業務が疎かになります。

その結果、スタッフの育成が進まず、店長自身が疲弊するという悪循環に陥ります。

「プレイヤー意識からの脱却」こそが、店長としてのキャリアを成功させるための最初のハードルとなります。

雇われ店長とオーナー店長の決定的な違い

「店長」には、企業に雇用される「雇われ店長」と、自ら出資して経営を行う「オーナー店長」の2種類が存在します。

両者は店舗の責任者である点は共通していますが、求められるスキルの重心が異なります。

オーナー店長

資金繰りや事業戦略といった「起業家としての全責任」が伴う。

対して、多くの飲食店長が該当する雇われ店長の場合、本部の方針に基づき、割り当てられた経営資源(ヒト・モノ・カネ)を適切に管理し、目標を達成する「遂行責任」が重視。

雇われ店長

会社から預かった資源を効率的に運用し、利益を最大化する「管理スキル」を習得することが、将来的に独立を目指す場合においても、組織内でキャリアアップを目指す場合においても、強固な土台となる。

2.【ハードスキル】店舗を黒字化し、リスクを防ぐ4つの実務能力

店舗を黒字化し、リスクを防ぐ
4つの実務能力

数値管理

労務管理と
コンプラ

衛生管理

DX活用
スキル

精神論や経験則だけでなく、体系的な知識と技術に基づく「ハードスキル」の習得は、店舗経営の安定化に不可欠です。

ここでは、特に重要度の高い4つの実務能力について解説します。

1. 数値管理(FLコスト・損益分岐点)

「美味しい料理と良い接客」だけでは、店舗の存続は保証されません。店舗経営の健全性を測るバロメーターである「数値」を読み解く力は、店長にとって必須のスキルです。

特に重要となるのが、食材原価(Food)と人件費(Labor)を合わせた「FLコスト」の管理です。

一般的に売上の60%以下に抑えることが目安とされますが、原材料費の高騰や賃上げが進む現在の経済環境下では、より緻密なコントロールが要求されます。

また、適正な発注量の算出も重要です。売上予測に基づかない過剰在庫は、直接的な利益圧迫要因となるためです。

家賃や光熱費などの固定費を含め、いくら売り上げれば利益が出るのかという「損益分岐点」を常に把握することも大切です。

日々の売上目標やスタッフの配置数に落とし込む計数管理能力が求められます。

2. 労務管理とコンプライアンス

店舗運営のリスク管理において、労働関連法規の知識は、スタッフを守るためだけでなく、店長自身や会社を法的リスクから守るための「防具」となります。

飲食業界は長時間労働や休日不足が常態化しやすい環境にありますが、労働基準法における「36協定(時間外労働の上限規制)」や、休憩時間の付与義務、有給休暇の取得義務などを正しく理解し、遵守する必要があります。

法令違反は、ブラック企業という烙印を押されるだけでなく、離職の連鎖や訴訟リスクにも直結します。

適切な勤怠管理を行い、過重労働を防ぐことは、コンプライアンス(法令遵守)の観点から最優先で取り組むべきマネジメント業務です。

参考:厚生労働省|36協定で定める時間外労働及び休日労働 について

3. 衛生管理(HACCPと食中毒対策)

食の安全を守ることは、飲食店にとって生命線です。

特に2021年6月から完全義務化された「HACCP(ハサップ)」に沿った衛生管理は、避けて通ることができません。

HACCPとは?

食品製造の全工程で危害を分析し、重要管理点を定めて継続的に監視する衛生管理手法です。問題が起きてから対処するのではなく、事前に危険を予測・管理することで食品の安全性を確保します。

具体的な「衛生管理計画」を作成し、日々の実施状況を記録・保存することが法的に求められています。

食中毒事故は一度の発生で店舗の信用を失墜させ、営業停止や損害賠償に発展する可能性があります。

徹底した手洗いや温度管理の指導など、食中毒予防の3原則(つけない、増やさない、やっつける)を組織全体で徹底する指導力が問われます。

参考:厚生労働省|HACCP(ハサップ)

4. DX活用スキル(業務効率化)

人手不足が深刻化する中、限られた人員で生産性を高めるためには、DX(デジタルトランスフォーメーション)の活用が不可欠です。

これまで手書きやExcelで行っていたシフト作成、発注業務、予約管理などを、専用のSaaSやアプリに置き換える動きが加速しています。

ITツールに対する苦手意識を捨て、便利なシステムを積極的に導入・運用するスキルは、店長の事務作業負担を大幅に軽減します。

DX利用で生まれた時間を、接客やスタッフ教育といった「人にしかできない業務」に再投資することが、店舗の競争力を高める鍵となります。

3.【ソフトスキル】「人が辞めない」店を作る3つの対人能力

「人が辞めない」店を作る
3つの対人能力

リテンション
マネジメント

心理的安全性
と傾聴力

自分自身の
メンタル管理

仕組みや数値を管理するハードスキルに対し、スタッフの感情やモチベーションに働きかけ、組織を活性化させるのが「ソフトスキル」です。

採用難の時代において、その重要性はかつてないほど高まっています。

1. リテンション・マネジメント(定着管理)

昨今の飲食業界において、新たな人材を採用することは極めて困難であり、学生アルバイトの応募数がコロナ禍前と比較して約半減しているというデータもある通り多大なコストがかかります。

そのため、既存のスタッフが辞めずに生き生きと働き続けられる環境を作る「リテンション・マネジメント」が、経営上の最重要課題となっています。

単に給与を支払うだけでなく、スタッフ一人ひとりの働く動機を理解し、「この店で働きたい」「成長できる」と感じさせるエンゲージメントの向上が求められます。

リテンション・マネジメントとは?

従業員の離職を防ぎ、組織に定着させるための管理手法です。給与だけでなく、働きがいや成長機会を提供し、「ここで働き続けたい」と思える職場環境を作ることで、人材流出を抑制します。

多様な背景を持つスタッフ(学生、主婦、外国人、シニアなど)それぞれの事情に配慮し、長く定着してもらうための関わり方を工夫することが、安定した店舗運営に直結します。

2. 心理的安全性の醸成と傾聴力

風通しの良い職場づくりには、「心理的安全性」の醸成が不可欠です。

心理的安全性とは、組織の中で自分の考えや気持ちを誰に対してでも安心して発言できる状態のことです。

これを実現するために必要なのが「傾聴力」です。

部下の話を途中で遮らず、目を見て最後まで聴く感情を受け止める。こうした基本的なコミュニケーションの積み重ねが、店長とスタッフとの信頼関係を構築します。

感情的な叱責はパワハラのリスクを高めるだけでなく、スタッフの心を閉ざしてしまう行為であることを認識する必要があります。

3. 自分自身のメンタルヘルス管理(レジリエンス)

店長は、上層部からの業績プレッシャーと、現場スタッフからの要望の板挟みになりやすく、孤独を感じやすいポジションです。

さらに、クレーム対応や長時間労働などのストレス要因も多く、メンタルヘルス不調のリスクが高い職種といえます。

困難な状況に直面しても、しなやかに適応し回復する力(レジリエンス)を高めるためには、完璧主義を手放し、適度な休息を取ることが重要です。

一人で抱え込まずに、エリアマネージャーや他店舗の店長など、相談できるネットワークを持つことも有効な対策となります。

4.店長経験が市場価値を高める!将来のキャリアパスと年収

4.店長経験が市場価値を高める!将来のキャリアパスと年収

店長として培った「ヒト・モノ・カネ」の管理能力は、飲食業界内での昇進はもちろん、異業界への転職においても高く評価される「ポータブルスキル(持ち運び可能な能力)」です。

最近の給与動向と市場価値

求人飲食店ドットコムのデータ(2025年度上期)によると、東京都における飲食店従業員の平均月給は30万円の大台を突破しており、大阪や福岡などの地方都市でも上昇傾向にあります。

これは深刻な人手不足を背景とした「売り手市場」を反映しており、確かなマネジメントスキルを持つ店長経験者の市場価値は高まっています。

特に、前述した数値管理や人材定着の実績を定量的にアピールできる人材は、好条件での転職が可能となっています。

参考|株式会社シンクロ・フード:【2025年度上期飲食店動向】飲食店の平均給与(業態・業種別)を飲食店ドットコムが発表。

店長から広がる多様なキャリア(SV・本部・独立・異業種)

店長職はキャリアのゴールではなく、多様な可能性への出発点です。主なキャリアパスとして、以下のような選択肢が挙げられます。

上級管理職(エリアマネージャー・SV)

複数店舗を統括し、店長の指導や経営数値の責任を負うポジションです。

より広範な影響力を行使できます。

本部専門職

現場経験を活かし、人事(採用・教育)、商品開発、マーケティング、店舗開発などの専門部署へ異動する道です。

独立開業

オーナー店長として自身の城を持つ選択です。

雇われ店長時代に培った経営ノウハウが成功の鍵を握ります。

異業界への転職

小売、介護、人材サービスなど、対人折衝やチームマネジメントが重視される業界では、飲食店長の経験が高く評価されます。

現在の業務に忙殺されるのではなく、これらの将来像を見据えながら、日々の業務を通じて意図的にスキルを磨いていく姿勢が、キャリアを切り拓く力となります。

5.店長スキルは「一生モノ」の資産になる

2025年の飲食店長に求められるスキルと、キャリア戦略について解説しました。

日々の激務の中で、新しいスキルを習得することは決して簡単ではありません。

しかし、目の前の業務を「ただこなす」のではなく、「これは経営のどの領域だろうか?」「もっと効率化できないか?」と少し視点を上げるだけで、得られる経験値は劇的に変わります。

「名ばかり管理職」として疲弊するのではなく、確かな実務能力と人間力を兼ね備えた「プロフェッショナル・マネージャー」へ。

その進化の先には、年収アップや独立、異業界へのキャリアチェンジなど、店長自身が主体的に選択できる自由な未来が広がっています。

まずは、今日できる小さな「業務効率化」や、スタッフへの「傾聴」から始めることが、確実な一歩となります。

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